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IFRSワンポイント・レッスン 第42回 _GPF会議(2026年6月)での議論

公開日: 2026年8月18日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 Finance CoE 統括部長

ワンポイント

 2026年6月のCMAC・GPF合同会議では主に「無形資産」プロジェクトと「キャッシュ・フロー計算書及び関連事項」プロジェクトについて、IASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では「無形資産」プロジェクトについての議論を紹介する。

 

はじめに

 2026年6月18日及び19日に、資本市場諮問委員会(Capital Market Advisory Committee、以下、「CMAC」)及び世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、以下、「GPF」)の合同会議が開催された。CMACは財務諸表利用者の代表者から、GPFは財務諸表作成者の代表者から、それぞれ構成される会議体であり、それぞれの立場から国際会計基準審議会(以下、「IASB」)に対して定期的にインプットすることを目的としている。今回の会議も、前回に引き続き、ロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となった。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能であるため、適宜参照頂きたい。

無形資産プロジェクト

 本会議では、認識済み・未認識の無形資産および関連支出について、財務諸表利用者(以下、「利用者」)がどのような情報を求めているのかを踏まえ、IASBの無形資産プロジェクトの今後の方向性について意見交換が行われた。


利用者の情報ニーズ

 議論の出発点として、多くのCMACメンバーは、利用者は無形資産そのものよりも、研究開発、ブランド構築、人材育成、顧客獲得などの「無形活動」を企業価値や将来キャッシュ・フローの重要な源泉として捉えているとの見方を支持した。利用者が求めているのは、財政状態計算書により多くの無形資産を認識することではなく、それらの活動についての、より明確で、相互の関連性が分かりやすく、かつ細分化された情報であるとの認識が共有された。  

 その他、企業結合で取得した無形資産と自己創設無形資産との比較可能性に対する関心が高いこと、無形投資の成果や進捗を評価する上でのKPIや定量指標への需要が高いこと、また、AIやデータ分析ツールを活用した新しいタイプの利用者も増えているため従来型のアナリストだけを前提に情報提供を考えるべきではないこと等の意見が出された。

支出と成果の関連付け及び当期との結び付き

 多くの参加者が、無形資産の認識範囲を拡大するよりも開示の改善を優先すべきと考えていた。認識範囲を広げると認識や測定における主観性が増す可能性がある一方で、開示の充実は透明性向上に直結すると考えられているためである。特に、研究開発費、マーケティング費用、顧客獲得費用、教育訓練費などについて、現在の収益を支える支出と将来の収益創出を目的とする支出とを区別して開示することが利用者にとって有用であるとの意見があった。また、財務諸表の数値と経営者による説明(Management Commentary)などのナラティブ情報とのつながりを強化すべきであるとの指摘もあった。

比較可能性

 比較可能性に関する議論では、企業結合で取得した無形資産と自己創設無形資産をどの程度比較可能にすべきかについて意見が分かれた。IFRS第3号「企業結合」(以下、「IFRS第3号」)では企業買収時に多くの無形資産を認識する一方、IAS第38号「無形資産」(以下、「IAS第38号」)では内部創出無形資産の認識が制限されるため、類似の経済価値を持つ資産であっても異なる会計処理が適用される。この点については、買収によって成長する企業と有機的に成長する企業はビジネスモデルが異なるため会計上の差異は当然であるという見解があった一方で、現行の会計処理によって同一業界内でも比較が困難となっているため利用者にとって重要な問題であるとの意見も聞かれた。  

 GPFメンバーからは、こうした比較可能性の問題は、IFRS第3号とIAS第38号の間に存在する概念上の不整合に起因しているとの見解が示された。利用者は企業結合によって取得されたか自己創設されたかにかかわらず、無形資産を経済価値や将来キャッシュ・フローの観点から評価するが、現行基準では、資産の発生形態によって認識・測定結果が異なるため比較可能性が損なわれているとの考え方である。また、企業結合に伴う会計処理と監査対応には多大なコストが発生しており、IFRS第3号とIAS第38号の整合性を高めることで、より有用な開示に資源を振り向けられる可能性も指摘された。

今後の論点及びIAS第38号の認識要件

 将来の無形資産に関する論点としては、データ、AI、クラウドコンピューティング関連資源の重要性が繰り返し指摘された。これらは現代企業の価値創造においてますます中心的な役割を果たしており、今後は無形資産の定義や認識要件そのものに影響を与える可能性があるとの認識が共有された。

 プロジェクトの方向性については、投資目的で保有される無形資産、特に暗号資産やカーボンクレジットは重要なテーマであるものの、IAS第38号の見直しや開示改善よりも優先度は低く、別プロジェクトとして検討すべきとの意見が大勢を占めた。また、それらを扱う場合には、関連する負債も含めた包括的な検討や、US GAAPの実務を参考にすることが提案された。

 IAS第38号の認識要件については、大多数のメンバーが見直しを支持した。ただし、全面的な制度改正ではなく、既存基準の適用上の不整合や欠陥を修正する「Fatal Flaw Review(重大な欠陥レビュー)」を支持する声が強かった。一方で、一部のメンバーは、AIやデータといった新たな経済資源の重要性を踏まえると、将来的には支配や経済的便益といった基本概念まで踏み込んだ見直しが必要になる可能性を指摘した。

開示要求事項の改善

 開示の改善については、その必要性自体にはほぼ異論がなかった。ただし、CMACメンバーを中心に早期の改善を求める声があった一方、GPFメンバーの中には認識要件と開示要件は密接に関連しているため、両者を連携させながら進めるべきとの意見もあった。改善案としては、研究開発費等の営業費用の細分化、財務情報とナラティブ情報の連結性向上、サステナビリティ関連開示との関係強化などが挙げられた。

今後のステップ

 IASBはこれらのフィードバックを踏まえ、2026年後半に本プロジェクトの今後の方向性を決定する予定である。

おわりに

 今回の議論では、財政状態計算書に計上する無形資産の範囲を広げることよりも企業の投資の内容や成果についての開示を拡充することを支持する声が多く聞かれた。企業としては、会計上費用化される投資も含めた無形投資について、企業戦略と絡めたストーリーを開示していく必要が出てくると思われる。

(文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、また、参加者の発言内容の記載は筆者の解釈に基づくものであることを予めご了承いただきたい。)

筆者略歴

富士通入社後、海外の事業管理を経て、2002年に米国子会社へ駐在し現地の管理会計を担当。帰国後、本社にてグローバルでのIFRS適用プロジェクトに従事。2010年に企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。さらに2012年に英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通本社の財務経理部門にて、富士通グループの財務・税務・会計(Center of Expertise = CoE)をグローバルで統括。英国ロンドン在住。

世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー