公開日: 2026年1月30日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 Finance CoE 統括部長
ワンポイント
2025年11月のGPF会議では、「無形資産」や「持分法」を含む様々なトピックについて、IASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。
はじめに
2025年11月14日、世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、以下「GPF」という。)が開催された。GPFは財務諸表作成者の代表者からなる会議体で、作成者の立場から、国際会計基準審議会(以下、「IASB」という。)に対して定期的にインプットすることを目的としている。GPFのメンバーは18名(2025年11月末現在)で、ヨーロッパ9名、北米2名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア4名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。
今回の会議も、前回に引き続き、ロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となった。日本からは筆者が対面で参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、GPFメンバーとの意見交換が行われた。
以下が当日の議事一覧であり、このうち、無形資産と持分法についての主な討議内容を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能であるため、適宜参照頂きたい。
- IASB・IFRS解釈指針委員会アップデート
- 無形資産
- 企業結合-開示、のれん及び減損
- キャッシュ・フロー計算書とその関連事項
- 償却原価
- 持分法
- ISSBアップデート
無形資産
IASB は、第 3 次アジェンダ協議で優先度が高いとされた無形資産について、リサーチ・プロジェクトとして作業計画に追加し、プロジェクトを開始している。プロジェクトの進め方として、無形資産に係るテストケースをいくつか選択し、それらを分析した上で、無形資産の定義、認識規準及び関連するガイダンスを更新すべきかどうかを検討することが提案されている。
今回のGPF会議では、具体的なテストケースの候補として、クラウド・コンピューティング、アジャイルソフトウェア開発、AI及びデータ資源の三つが挙げられた。クラウド・コンピューティングについては、ビジネスが従来のオンプレミス型からSaaSなどのサービス型に移行しつつある中、顧客企業による支配や経済的便益の獲得をどう考えるかといった論点があり、テストケースとして取り上げるべきと提案された。アジャイルソフトウェア開発についても、会計単位を明確化することで基準の原則を開発するのに役立つ可能性があり、取り上げるべきと提案された。一方で、AI及びデータ資源については、実務上の課題がクラウド・コンピューティングとアジャイルソフトウェア開発と類似していると考えられるため、テストケースに追加しないことが提案された。
GPFメンバーは、テストケースを分析した上で無形資産の定義や認識規準についての検討を行うことについて概ね同意した。一方で、IAS第38号「無形資産」を根本的に見直した上で、新しく定める無形資産の定義を満たす場合や、対象となる資産が当該資産から生じる収益と対応している場合にのみ、無形資産として認識されるべきであるとの意見も出された。
テストケースの対象として、クラウド・コンピューティングとアジャイルソフトウェア開発を選定することについても、多くのGPFメンバーの同意を得られた。一方で、それら二つのような新しいケースだけではなく、これまでの実務で課題が見られる典型的なケースも取り上げるべきとの意見も出された。AI及びデータ資源についてはGPFメンバーの見解が分かれ、例えば、AIはまだ進化している段階でありケースとして取り上げるのは早いという意見があった。筆者は、AIは世の中のあらゆる領域を劇的に変え、多くのビジネスや業種に影響を与え得るものであるため、無形資産という枠にとどまらず「AI」という独立した会計基準を開発すべきではないかとコメントした。
持分法
IASB は、2024年9月に公開草案「持分法会計-IAS第28号『関連会社及び共同支配企業に対する投資』(202x年改訂))」を公表した。公開草案では、IFRS第10号「連結財務諸表」とIAS第28号との要求事項の不整合を解決する方法として、関連会社との取引から生じる利得及び損失の全額を認識することが提案されている。今回のGPF会議ではこの点についてのGPFメンバーの見解が求められた。
複数のGPFメンバーは、元々今回の改訂では持分法についての包括的な見直しを行わないとしていたにも関わらず、今回の提案の内容で基準が確定した場合、持分法に対する根本的な変更が行われることになると考えられるため反対であるとの意見を表明した。また、関連会社との取引から生じる利得及び損失は、当該利得及び損失に係る資産が実際に第三者へ移転するまでは実現しないため、発生時点で全額を認識することは取引の実態を表さない、ということも反対の根拠として述べた。
IASBメンバーからは、今回の提案は持分法がいわゆる一行連結か公正価値測定かを検討し直すものではないとの説明があった。筆者は、未実現利益を消去するかどうかはまさにその部分に関係する論点であり、根本的な見直しにつながってしまうのではないか、持分法会計はある意味非常に微妙なバランスの下で実務運用されており、今回の提案はそのバランスを崩しかねないため、根本的な見直しは個別のプロジェクトとしてきちんと検討すべきであるとコメントした。
おわりに
今回のGPF会議は、英国ロンドン赴任後、初めて参加する会となった。東京からの参加と比べて、移動時間が劇的に少なく、かつ、時差の影響も受けないため、これまでよりも集中して会議に参加できたのではないかと思う。今回取り上げた無形資産と持分法はいずれも日本企業にとって重要な会計基準であり、引き続き、地の利を生かしてリアルタイムで意見発信していきたい。
筆者略歴
富士通入社後、海外の事業管理を経て、2002年に米国子会社へ駐在し現地の管理会計を担当。帰国後、本社にてグローバルでのIFRS適用プロジェクトに従事。2010年に企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。さらに2012年に英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通本社の財務経理部門にて、富士通グループの財務・税務・会計(Center of Expertise = CoE)をグローバルで統括。英国ロンドン在住。
ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員 世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー