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IFRSワンポイント・レッスン 第37回 _GPF会議(2025年3月)での議論

公開日: 2025年5月9日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 Finance CoE 統括部長

ワンポイント

 2025年3月のGPF会議では、IASB公開草案「資本の特徴を有する金融商品」について、IASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。

 文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。

はじめに

 2025年3月28日、世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、以下「GPF」という。)が開催された。GPFは財務諸表作成者の代表者からなる会議体で、作成者の立場から、IASBに対して定期的にインプットすることを目的としている。GPFのメンバーは18名(2025年3月末現在)で、ヨーロッパ8名、北米3名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア4名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。

 今回の会議も、前回に引き続き、ロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となった。日本からは筆者がオンラインで参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、GPFメンバーとの意見交換が行われた。

 以下が当日の議事一覧であり、このうち、資本の特徴を有する金融商品についての主な討議内容を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能であるため、適宜参照頂きたい。

  • IASB・IFRS解釈指針委員会アップデート
  • 資本の特徴を有する金融商品
  • 無形資産
  • キャッシュフロー計算書とその関連事項
  • ISSBアップデート


資本の特徴を有する金融商品

背景

 近年、金融の技術革新、市場の原理及び金融セクター規制の変化に伴い、金融負債と資本の両方の特徴を有する複雑な金融商品が増加したことにより、企業が IAS第32 号「金融商品:表示」を適用して金融負債と資本性金融商品とを分類する際に実務上の課題が生じている。これを受けて、IASB は、2018 年6 月にディスカッション・ペーパー「資本の特徴を有する金融商品」を、2023 年11 月に公開草案「資本の特徴を有する金融商品(IAS 第32 号「金融商品:表示」、IFRS 第7 号「金融商品:開示」及びIAS 第1 号「財務諸表の表示」の修正案)」(以下「ED 」という。)、それぞれ公表している。現在、IASBはEDに寄せられたフィードバックを検討しており、2026年末までに提案を最終化することを目標としている。

GPF会議での議論

 今回のGPF会議では、EDへのフィードバックを踏まえ、表示と開示に係る提案及びその最終化の時期について、GPFメンバーの見解がヒアリングされた。

 表示

 IASBは、資本性金融商品は利益へ参加する権利と残余持分へ参加する権利に基づいて区分できると考えているが、資本性金融商品の所有者への利益の帰属が企業の業績とリターンを評価する際により重要であるというフィードバックを踏まえ、利益へ参加する権利に着目し、表示について以下のアプローチを提示している。IASBはアプローチAを提案している。

A:普通株主、その他の参加型金融商品の所有者、非参加型金融商品の所有者に帰属する純損益を、それぞれ区分して表示

B:参加型金融商品の所有者(普通株主及びその他の参加型金融商品の所有者)に帰属する純損益と非参加型金融商品の所有者とを区分して表示

C:普通株主に帰属する純損益を個別に表示し、その他の所有者を合算して表示

 GPFメンバーは、概ね、IASBが提案するアプローチAに合意した。アプローチAはIAS第33号「1株当たり利益」の要求事項を基礎としているが、理解しやすい基準であるIAS第33号と整合させることは合理的な手法であるとの意見が聞かれた。資本性金融商品の所有者への利益の帰属がより重要であることを踏まえ、純損益計算書における当期利益へ参加する権利に着目することを評価する声も聞かれた。

 開示

 今回のGPF会議では特にIFRS 第7 号の修正提案について議論がなされた。IASBは、清算に対する請求権の性質及び優先順位並びに当該優先順位に関する契約条件を、企業の開示事項に含めることを提案している。

 今回の提案では、開示対象がIFRS第7号で要求されている流動性リスクに関する事項に限定されており、それによって、請求権の性質と優先順位の開示のスコープに買掛債務は含まれるが年金債務とリース債務は含まれないということになっている。この点について、GPFメンバーより、これらはすべて契約上の債務という点では同じであるため、財務諸表利用者にとって理解しづらいのではないかという懸念が示された。

 IASBからは、報告日時点で発行している企業の普通株式を希薄化させる可能性のあるすべての金融商品に係る開示、つまり普通株式の最大限の希薄化に係る開示が提案されている。この点についてGPFメンバーより、開示自体は有用であるがIAS第33号の要求事項との重複は避けるべきであるとのコメントが出された。

 最終化の時期

 GPFメンバーから、今回の提案については、強制適用日が少し先であったとしても、企業がIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の適用と同じタイミングで適用できるように、早期適用の定めを設けるのが良いのではないかとの提案がなされた。

 一方で、他のGPFメンバーからは、認識や測定と比べて表示や開示はより変更の柔軟性があると理解しており、今回の提案における表示や開示の方向性をIASBが明確に示すことができた時点で、企業は任意での表示や開示の改善を検討することができるのではないかとの意見も出された。

 各セッションにおけるGPFメンバーからのフィードバックは、今後のIASBの審議において考慮される予定である。

おわりに

 最近の会計基準の改訂は、認識や測定の見直しよりも、より有用な財務情報を伝えられるように表示や開示を拡充するという傾向にあると感じている。開示の拡充は、財務諸表利用者にとっての負荷は増すものの、それが財務情報の有用性の向上に資するのであれば、当然取り組むべきことである。一方で、何に使われるかよく分からないような開示事項の追加や、負荷の増加に対して効果が薄いボイラープレート的な開示要求には、きちんと反論すべきである。今回の公開草案に限らず、そのような目線で会計基準の改訂をモニタリングし意見発信していきたい。

筆者略歴

富士通入社後、海外の事業管理を経て、2002年に米国子会社へ駐在し現地の管理会計を担当。帰国後、本社にてグローバルでのIFRS適用プロジェクトに従事。2010年に企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。さらに2012年に英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通本社の財務経理部門にて、富士通グループの財務・税務・会計(Center of Expertise = CoE)をグローバルで統括。

ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員 世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー