公開日: 2026年5月11日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 Finance CoE 統括部長
ワンポイント
2026年3月のGPF会議では、「キャッシュ・フロー計算書及びその関連事項」や「IFRS第9号の適用後レビュー:ヘッジ会計」を含む様々なトピックについて、IASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。
はじめに
2026年3月20日、世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、以下「GPF」という。)が開催された。GPFは財務諸表作成者の代表者からなる会議体で、作成者の立場から、国際会計基準審議会(以下、「IASB」という。)に対して定期的にインプットすることを目的としている。GPFのメンバーは17名(2026年4月末現在)で、ヨーロッパ8名、北米2名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア4名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。
今回の会議も、前回に引き続き、ロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となった。日本からは筆者がオンラインで参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、GPFメンバーとの意見交換が行われた。
以下が当日の議事一覧であり、このうち、キャッシュ・フロー計算書及びその関連事項(Topic 1)についての主な討議内容を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能であるため、適宜参照頂きたい。
- IASB・IFRS解釈指針委員会アップデート
- キャッシュ・フロー計算書及びその関連事項(Topic 1)
- キャッシュ・フロー計算書及びその関連事項(Topic 2)
- IFRS第9号の適用後レビュー:ヘッジ会計
- ISSBアップデート
キャッシュ・フロー計算書及びその関連事項(Topic 1)
背景
IASBは、2025年10月のボード会議で、企業が非資金取引について開示する情報の内容及び記載場所を定めるための要求事項を開発することを暫定的に決定した。IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」は、非資金取引に関連性のある情報をすべて開示することを企業に要求しているが、情報がどこにどのように開示されるのかについては特定していない。
非資金取引とは、現金又は現金同等物の使用を必要としない投資取引及び財務取引であり、キャッシュ・フロー計算書から除外されるものをいう。これらの取引は、現在のキャッシュ・フローへの直接的な影響はないが、企業の資本や資産の構成に影響を与える。非資金取引の例として、売手からの直接の借入れ又はリースによる資産の購入、売手への株式の発行による資産の購入、債務の資本への転換がある。
非資金取引は、価値の変動(例えば減損)又は為替差額の変動のような特定の資産及び負債における非資金変動とは異なるものであり、今回、非資金取引と特定の資産及び負債における非資金変動のそれぞれについて議論を行った。
GPF会議での議論(非資金取引)
IASBスタッフから、非資金取引についての2つの開示例の案が示された。案1は、非資金取引についてのナラティブな情報を、また、当該取引の影響額を、キャッシュ・フロー計算書の構造に沿って、当該取引に相当する資金取引の横に並べた上で、開示する、というものである。案2は、非資金取引についてのナラティブな情報を、また、当該取引の影響額を、当該取引によって影響を受ける資産と負債の期初残高から期末残高への調整に含める形で、開示する、というものである。
GPFメンバーからは、非資金取引についての情報をそのような形で追加的に提供することの目的や効果について疑問視する声が上がった。企業は、例えばIFRS第16号「リース」の要求事項に従ったリース取引に係る情報のように、財務諸表利用者が非資金取引の影響を把握するための情報は既に開示しており、今回提案されている情報を開示することは不必要な開示の重複を招くことになる、という意見が出された。
また、仮に今回提案されている情報を開示することとなった場合、その対応のための追加コストの度合いは企業ごとの会計システムや非資金取引を識別するプロセスの整備状況に左右されるが、すべての企業がすぐに対応できるわけではないという懸念の声も聞かれた。また、非資金取引を調整表の中で開示する場合、重要性の低い情報も含むすべての情報をいずれかの項目に配賦する必要があり、それによって企業側のコストだけでなく監査対応のコストも膨らむのではないかという意見が出された。
GPF会議での議論(特定の資産及び負債における非資金変動)
IASBスタッフから、営業債権及びその他の債権、棚卸資産、営業債務及びその他の債務について非資金変動をどのように開示するかについての案が出された。これらの資産及び負債は、通常、企業が運転資本として捉えている範囲の大部分を占めるものである。開示案では、キャッシュ・フロー計算書で報告された変動額とバランスシート残高の変動額との調整表を開示し、特定の非資金変動をリストアップする、ということが提案されている。財務諸表利用者は、バランスシート及びキャッシュ・フロー計算書で報告されるそれら資産及び負債の残高の変動のすべての要素を理解することが困難であるとの見解を示しており、その懸念への対応策として今回の開示案が提示された。
GPFメンバーは、今回の提案の目的が企業の運転資本に係る非資金変動についての追加情報を提供することであることに理解を示しつつも、こちらの論点についても、その対応のための追加コストの度合いは企業ごとの会計システムや非資金変動を識別するプロセスの整備状況に左右される、という見解を示した。また、キャッシュ・フロー計算書の作成は、バランスシート及び損益計算書を作成するプロセス(すなわち試算表)と異なり、判断や配賦のプロセスを必要とするため、例えば棚卸資産とIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」で定める契約資産及び契約負債のように両分類間で頻繁に金額が動く科目については、今回の提案で求められている情報を識別するのは困難ではないかとの意見が出された。
おわりに
キャッシュ・フロー計算書の作成は実務で非常に苦労する領域であり、開示の拡大は実務家にとって悩ましい議論ではあるものの、企業のキャッシュ・フロー、特に運転資本についての情報の拡充を利用者が求める点は理解できる部分もあるため、GPFから建設的な意見を提供することで双方納得する結論に持っていければと考えている。
筆者略歴
富士通入社後、海外の事業管理を経て、2002年に米国子会社へ駐在し現地の管理会計を担当。帰国後、本社にてグローバルでのIFRS適用プロジェクトに従事。2010年に企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。さらに2012年に英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通本社の財務経理部門にて、富士通グループの財務・税務・会計(Center of Expertise = CoE)をグローバルで統括。英国ロンドン在住。
世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー