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IFRS財団の最新活動情報_基準設定の働きを支える関係者とのコミュニケーション

公開日: 2025年10月31日

 筆者: 芝坂佳子氏 IFRS財団アジア・オセアニアオフィス ディレクター

はじめに

 道具は使われてこそ価値を発揮する。では、使われる道具となるための要件とはなにか?使い勝手が良いこと、使い手の用途にあっていることはもちろんのこと、使い心地が良いことも大切な要素だろう。

 IFRS財団は報告のための基準、言い換えれば、報告のための「道具」を開発する組織であり、利用者の意思決定に貢献できるための情報を提供するための道具立ての整備のために、様々な活動を続けている。特に、「グローバルベースラインとしての基準」となると、期待も様々であるし、事情や背景もまちまちな現状を踏まえた上での「落とし所」を見つけだす必要もでてくる。

 そのような活動の中心にあるのが、多様な専門家との連携であり、基準に対する異なる立ち位置、例えば発行体、利用者、行政、規制団体、の方々との意見交換である。

 IFRS財団アジア・オセアニアオフィスは、これらの方々との良好な関係性を維持し、信頼関係をベースとするエンゲージメント活動の拠点である。日本やアジアのために活動するだけでなく、開発される基準がグローバルで許容されていくために、時としては、日本の関係者のみなさまの意向とは異なる事項について、ご理解をいただくための活動も大切となる。

 この3ヶ月は、アジア・オセアニアオフィスが有する、IASBおよびISSBの双方の活動をカバーするという特性が表出した活動が多かったように考える。

これからの情報性を高めるためのディジタルタクソノミー

  報告の電子化やデータフォーマットでの情報提供はいまや不可避であり、発行体が提供している情報が適切に正確に活用されるためにも、報告のディジタル化のあり方は大きな課題となっている。IFRS財団はテクノロジーに関する諮問機関としてIFRSタクソノミー諮問グループ(ITCG)を組成し、専門家のみなさまのご尽力をいただいている。このグループは、IASBとISSBの両方に関与し、この点からもタクソノミーの報告における大切さがみえてくる。

 日本からは筏井大介氏がメンバーとして参加くださっており、年に一度、議論の内容について、関係各位にご報告をいただいている。ISSBタクソノミーが公表され、日本でも、2027年版のEDIネットタクソノミー案が公表される段階にある中、8月28日に報告会が開催された。

 ISSBの発足を受け、昨年より、より幅広い関係者の方にご参加をいただいており、感謝している。今年も高い関心の中で、積極的な意見交換がなされ、ディジタルタクソノミーに対する知識とともに、情報活用を推進するための役割や位置づけを再認識する機会となった。

IASB議長アンドレアス・バーコウ来日

 IASB議長のアンドレアス・バーコウは、年に一度、来日し、多くの関係者、会計実務等に責任を有する方々だけでなく、経営や組織の意思決定に責任を有する方々との意見交換も、積極的に行っている。

 今回は同時期にIOSCOのC1の会議の開催、日中韓三カ国会計基準設定主体会議への参加などもあり、日本における課題認識を多面的に理解し、今後の検討につながる成果を多く得られたのではないか、と感じている。例えば、日本銀行や経済産業省など、これまでは意見交換の機会がなかった組織との面談の実現などは、会計基準の果たす役割への期待の一端ではないか、と考える。

 最近は日本経済新聞紙上等でも会計基準がテーマとして取り上げられるようになっている。会計基準を開発する側と、それを利用する側の双方による、様々なレイヤーでの意見交換の有意性を改めて認識する来日であったと感じている。

 なお、アンドレアス・バーコウは、来年6月末の任期終了をもって、IASB議長としての責務を終えることが決まっている。これから、IFRS財団として新たな議長の選定に入っていくことになるが、日本、そしてアジア・オセアニア地域への関与を引き続き、定期的に実現できるようにと願っている。

統合報告ラウンドテーブルの開催

 本年4月に東京で開催された「統合報告・統合思考カンファレンス」は、おかげさまで、多くの方々のご尽力により、成功裡に終了することができた。統合報告への取り組みは、Long JournyともNever Ending Storyともいわれるように、中長期的な価値の実現、企業価値の向上のための取り組みである点から、継続的な活動を続ける必要がある。

 その取り組みの一環として、IASB議長の来日時に、発行体企業、投資家、そして、日本における統合報告コミュニティからの参加をいただき、10月9日にラウンドテーブルを開催した。

 日本は世界の中でも統合報告書に熱心に取り組んでいる国である。その経験等を活かして、これから制度化されようとしているサステナビリテイ情報も加えて、包括的な企業情報を実現していくのか、また、経営の立場からの便益や課題等、さらには投資家からの期待などについて、熱心な意見交換が繰り広げられた。

 ロンドンからも統合報告とリードするJonathan Labreyがオンラインで参加し、現在のIFRS財団の取り組み等についての紹介も行った。  IASBとISSB双方のボードメンバーが所属するアジア・オセアニアオフィスには、長年本領域で活動しているフェローもおり、国内のネットワークとの関係性も有している。これらの特徴を活かしつつ、統合報告に前向きに取りくまれている企業、統合報告書の情報を活用し高質なエンゲージメントを実践されている投資家の方々を中心に、議論の醸成にむけた活動を今後とも継続ができればと切望している。

ISSB小森博司理事の再任とTae-Young Paik理事の退任

 2025年10月より小森博司理事が、再任され、第二期の任務が開始した。但し、任期は1年であり、2026年9月まで、かつ、パートタイムとしての執務であることが公表されている。

 日本におけるサステナビリテイ情報開示のターニングポイントにある今、時間的な制約はありつつ、ISSBに関わる活動を引き続き、推進する責務を担うことになっている。ぜひ、これまでの変わらないご支援とご鞭撻、意見交換などを心からお願い申し上げる。

 一方で、アジア・オセアニアオフィス所属であった韓国のTae-Young Paik理事は、9月末の任期満了により退任をした。しかしながら、議長のSpecial Advisorとしての関与は続くことになっている。Paik理事は定期的に来日もしており、セミナー等で日本のみなさまと意見交換の機会をいただくことも多くあった。これまでのご交誼に深く感謝申し上げる。

おわりに ― 辞任のご挨拶

 私ごとではあるが、2025年10月末の契約期間満了につき、アジア・オセアニアオフィスのディレクターを辞することとなった。この2年間で、IFRS財団がIASBおよびISSBの活動が大きく飛躍し、数々の成果を社会に呈することができた。一方で、IFRS財団は、資金面の課題も含め、あらたな組織の枠組みや運営体制を構築し、これからの活動の土台にむけた検討が本格化する時期ともなった。アジア・オセアニアオフィス以外のフランクフルト、モントリオール、北京の各事務所の在り方は、IFRS財団が志向している「マルチ・ロケーションモデル」を反映したものであるが、同時に、オペレーションの在り方、オフィスマネジメントの実際の過渡期として、いまだ、議論の途上にある。

 グローバルとローカルの関係性は、どの国際組織でも課題である。IFRS財団が社会から付託されている役割や使命を果たすべく、最善の活動が今後とも継続していくことを確信している。

 なんとか2年間の任期を終えることができたのは、一重に関係各位のご支援とご尽力、そしてご理解ゆえと、心から感謝をしている。

 ぜひ、今後ともIFRS財団へのご支援をお願い申し上げる。