公開日: 2025年8月4日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 Finance CoE 統括部長
ワンポイント
2025年6月のGPF/CMAC会議では、IFRS開示の構造化を含む様々なトピックについて、IASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。
はじめに
国際会計基準審議会(IASB)の諮問機関である、世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)と資本市場諮問委員会(Capital Market Advisory Committee、CMAC)との合同会議が、2025年6月12日と13日の2日間にわたり開催された。
GPFは財務諸表作成者の代表者から、CMACは財務諸表利用者の代表者から、それぞれ構成される会議体で、作成者及び利用者双方の立場からIASBに対して定期的にインプットすることを目的としている。筆者がメンバーを務めるGPFは17名(2025年7月末現在)で、ヨーロッパ8名、北米2名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア4名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。
今回の会議も、前回に引き続きロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となったが、筆者も含め多くのメンバーが対面で参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、以下の議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、GPFメンバーとCMAC メンバーとの意見交換が行われた。
以下が当日の議事一覧であり、このうち、IFRS開示の構造化についての主な討議内容を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能であるため、適宜参照頂きたい。
- IASB・ISSBアップデート
- IFRS開示の構造化
- キャッシュフロー計算書とその関連事項
- 企業結合-開示、のれん及び減損
- 持分法
- 第四次アジェンダ協議
IFRS開示の構造化(Structuring IFRS Disclosures)
背景
財務諸表利用者は、情報の収集や分析モデルへの落とし込みなど、企業の財務諸表分析を行う際にデジタルツールを活用している。IASBは、財務諸表利用者より、IFRSにおける開示情報が構造化されることによって情報の取り出しや企業間の比較分析をさらに効率的に行うことができるとのフィードバックを受けた。IFRSにおける開示要求事項では、概して、開示内容がどのように構造化されるべきかという点について明確に言及されておらず、そのため、現状は、開示情報をどう構造化するかどうかについては企業の判断に委ねられている。
IASBは今回の合同会議において、「構造化された開示」を、一旦、財務諸表利用者が開示情報及び当該開示情報とその他の開示情報との関係性を明確に識別・理解するためのフォーマットに従った開示、と定義している。また、開示が構造化される方法の例として、リストやテーブルの挿入、数字の算定根拠の開示、小計・調整表の活用を挙げている。
合同会議での議論
今回の合同会議では、構造化された開示の有用性やコストを中心に、GPFメンバーとCMACメンバーの見解がヒアリングされた。両メンバーからのインプットは、IASB及びISSBが将来基準開発を行う際の内部向けガイダンスの開発に活用される予定である。
全体
両メンバーのスタンスは、本件のスコープは極めて広く、短期間での解決策の提示は難しいものの、IFRSのクオリティや理解可能性、使い易さを改善する取り組みである、という点で概ね一致していた。
また、構造化とフォーマット化の区別は困難であるものの、構造化するということは数表の活用など一定のフォーマット化を意味するかもしれないとの意見も出された。開示を構造化する際には、比較可能性や理解可能性、信頼性などの向上によるベネフィットと、構造化された情報を用意するためのコストとのバランスをとる必要があるとのコメントもあった。特に、開示情報が利用可能でない場合にどうするかという点についての懸念の声があった。
GPFメンバー
GPFメンバーからは、すでに利用可能な情報を構造化して開示することはさほどリソースを要しないものの、現在利用可能でない情報については、仮にそれを構造化された開示に落とし込む場合にはひとつひとつその妥当性を検証しなければならないため、非常にコストがかかるとの懸念が示された。
また、構造化された情報に拘り過ぎることは、却って情報の目的適合性や開示の有用性の低下を招くのではないか、との懸念も出された。
GPFメンバーからは、きちんと整備された構造に従った開示は開示情報の信頼性の高さにつながること、また、すでにいくつかの地域ではベストプラクティスが見られることも認識しており、構造化するかしないかに関わらず、開示情報のクオリティを上げていく必要があることは承知している、とのコメントも出された。
CMACメンバー
CMACメンバーより、財務諸表内における用語の一貫性、つまり同じ項目を同じ用語で表現し、異なる項目については異なる表現を用いることが、財務諸表利用者の間の混乱を避けるために重要である旨、強調された。
構造化された開示や調整表の活用が開示情報の使い易さや信頼性を高めることになるのはもちろん、開示された情報の構造が財務諸表利用者が使うデータモデルの構造と整合している場合にはさらに有用になる、とのコメントが出された。
基本財務諸表を注記情報とつなげたり、注記情報とMD&Aをつなげたりすることで、開示情報がより一貫した、整合性のあるものとなり、それによって財務諸表利用者のより良い判断につながる、との見解が出された。
各セッションにおけるGPFメンバーからのフィードバックは、今後のIASBの審議において考慮される予定である。
おわりに
開示の構造化の動きは、ステークホルダーへのメッセージが分かり易くなり、さらに開示作業の効率化も図られるため、財務諸表作成者にとってもメリットが多くあると思われる。一方で、合同会議当日の議論にもあったように、現在利用可能でない情報や実務上入手が困難な情報を要求されることは、作成者の負荷を高めることとなるため、慎重な検討が必要である。その意味においては、構造化の議論を進めつつも、情報の優先度も合わせて整理されるべきであり、利用者にとって優先度の高い情報が構造化された上で開示されるようになるべきであると考えている。
筆者略歴
富士通入社後、海外の事業管理を経て、2002年に米国子会社へ駐在し現地の管理会計を担当。帰国後、本社にてグローバルでのIFRS適用プロジェクトに従事。2010年に企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。さらに2012年に英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通本社の財務経理部門にて、富士通グループの財務・税務・会計(Center of Expertise = CoE)をグローバルで統括。
ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員 世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー