公開日: 2025年1月30日
筆者: 芝坂佳子氏 IFRS財団アジア・オセアニアオフィス ディレクター
昨年は新年早々の地震等多難の幕開けとなったが、本年は通常よりも長い休暇が可能なカレンダーだったこともあり、報道等によると人々の往来もコロナ禍前の水準に戻ったようである。IFRS財団の複数地域にわたるオフィスでもクリスマス前から長めの休暇を取得するスタッフも多かったようだ。一方で、最近は「Merry Christmas」という挨拶は影をひそめ、代わりに「Season`s Greetings」などが使われようになっている。また、アジア・オセアニア地域では、中国だけでなく韓国やベトナム、マレーシアなども旧暦で新年を祝うため、同じ休暇の感覚で対応できないことも多い。
多様性の時代において、相手に対するリスペクトは不可欠なもので、ひとつ「新年を迎える」という事柄の中にもある様々な違いを理解しあうことは大切だろう。しかし、「年が変わる」という節目に、過去を振り返り、これからを考え、決意を新たにすることの意義は大きいと思う。
そこで、年頭にあたり、最近の活動をご報告するとともに、2024年を振り返り、2025年の活動の展望についてもお伝えすることとしたい。
新マネジメントディレクター ミシェル・マデランの来日
2024年10月31日、11月1日の2日間、マネジメントディレクターに就任したミシェル・マデランが来日した。多くの関係者のみなさまと直接にお目にかかり、IFRS財団が抱える課題をお伝えし、さらなるご支援をお願いする機会を持たせていただいた。
これまでのロンドン集中型にISSBのマルチロケーションモデルが加わり、IFRS財団も発展過程にある。より効率的効果的なオペレーション体制を整え、IASBおよびISSB両ボードの役割の推進に資するよう様々な改革が、ミシェルのリーダーシップの下、始まっている。
ぜひ、引き続き、関係各位のお力添えを心よりお願い申し上げる。
河野トラスティの副議長への就任、田代トラスティの再任
2025年1月に、河野正道トラスティがトラスティ会議の副議長に就任された。これまで、多くの国際的な公的機関で重責を担ってこられたご経験をお持ちの河野トラスティが二期目において、副議長の任をお引き受けいただけたことに、心からの感謝を申し上げたいと思う。
また、2025年1月から田代桂子トラスティの二期目がスタートした。多忙な本務の中、IFRS財団のミッションを達成するために、多様な事柄の充実にご尽力いただいている。発行体としてのご経験は、トラスティ会議の多様性にもつながっており、さらに3年間の関与をいただけることは本当にありがたいと感じている。
両トラスティとも、平素よりAOオフィスの活動や、関係各位との関係構築にご尽力をいただいており、そのご厚情にお応えできるように努力して参る所存である。
IFRS S1号, S2号 およびSASB日本語訳のリリース
SSBJのみなさまの多大なご尽力により、今般、IFRS S1号およびS2号の日本語訳が、中央経済社より出版された。基準書の翻訳には、内容そのものに対する本質的な理解だけでなく、きわめて綿密で正確な確認作業を必要とする。翻訳完成までの関係者のご努力に心からの敬意と感謝を表したい。そして、ぜひ、多くの方々にご活用いただきたい。
2023年末までに、国際化プロジェクトを終えたSASB基準であるが、今般、日本語訳が公開された。https://sasb.ifrs.org/standards/download/?lang=ja-jp#language-switcher-select-language
すでに、グローバルでは数多くの企業が採用しているSASB基準であるが、日本での利用はまだ一部にとどまっているのが現状である。グローバルな投資家の関心事や視点等を理解し、情報価値の高い報告につなげるためにも、ぜひSASB基準をご活用いただきたいと考えている。
2025年からは、気候変動に関連の深い12業種を選定し、強化を図っている。上半期中にはパブコメでステークホルダーのご意見をお伺いする機会を予定している。
アウトリーチ、エンゲージメント活動の拡張
IFRS財団にとり、広く関係者のご意見を拝聴し基準作りに反映させることと、発行した基準について適切に理解、ご活用をいただくための推進活動は、役割の大きな軸である。
2024年11月には、ICGN(International Corporate Governance Network)とISSBとの共催で投資家を招いたラウンドテーブルを開催した。アジア他地域からの参加もあり、充実した議論が展開された。
また、2025年1月にはXBRL Japanのご協力をいただき、日本経済団体連合会の主催による「情報開示を巡る国際動向に関する説明会」を開催し、基準の動向と発行体と利用者の双方に資するデータ提供に向けた課題等についてのセッションを展開することができた。
IASBの持分法プロジェクトなど様々なプロジェクトについてのアウトリーチ活動も、在ロンドンの理事やスタッフも参加して同時通訳において実施しており、広くご協力、ご参加をいただけていることに感謝している。
ご意見を率直にいただける機会を今後も大切にしていきたいと願っている。引き続き、ご支援をいただけますよう、心からお願い申し上げる次第である。
2024年の振り返りと2025年にむけた計画
2024年はIASB、ISSBともに実りの多い年となった。
IASBにおいては、IFRS第18号と第19号の発行に加え、今後のプロジェクトにつなげていくための協議を「企業結合-開示、のれん及び減損」、「財務諸表における気候関連リスクとその他の不確実性」のテーマにおいて実施し、日本のみなさまにも参加をいただいた。また、無形資産やキャッシュフロー計算書などに関するものなど、いくつかの新しいプロジェクトもスタートし日本の関係者からのインプットを頂くことができた。
ISSBは、IFRS S1号とS2号の導入支援に注力し、日本を含む30以上の国や地域がISSB基準の法的・規制的枠組みへの導入を進めるという成果を獲得することができた。これは、世界の国内総生産(GDP)の60%近く、世界の時価総額の40%以上、温室効果ガス排出量の半分以上を占めることとなっている。
2025年において、IASBは引き続き現在のプロジェクトを積極的な推進に加え、「動的リスク管理」に関する公開草案を公表する予定である。さらには、今後の作業計画を決定するための第四回のアジェンダ協議の準備作業なども予定している。 そして、ISSBは、引き続きS1とS2の導入支援を第一にしつつも、次なる2つのトピック「生物多様性及び生態系と生態系サービス」、「人的資本」に関する分野の研究を進めている。また、他基準との相互運用性への確保や、開示実務に役立てていただくための教育的資料の拡充にも引き続き注力する所存である。
統合思考・統合報告カンファレンスの開催
日本では1000社以上の企業が統合報告書の作成に取り組んでいる。統合報告フレームワークは現在、IFRS財団の知的財産であり、IRCC(Integrated Reporting and Connectivity Council)や、統合報告コミュニティの活動を通じ、その適用を支援している。東京における開催は、ISSBに基づく開示の推進、そして、6月に最終化されるManagement Commentary (MC)の活用を包括的な報告につなげるために、統合報告の実務をどのように活かし、持続的な企業価値の実現につなげていくのか等について、多面的な議論の展開の中から、多くのヒントを得ていただけるような内容にすべく鋭意準備中である。
本カンファレンスは、IFRS財団が主催し、多様な関係者のご協力やご支援もあり、IASBとISSBの双方から副議長の来日も確定している。
4月3日(木)に経団連会館で開催される本カンファレンスに、ぜひご参加をいただきたい。詳細は、今後、IFRS財団のHP等で公開する予定である。
おわりに
AOオフィスの活動は、日本だけでなく、AO地域全体をカバーすることが求められている。様々な制約の中で、難しさも多いが、活性化する必要性を感じているところである。
2024年4月には、アジア開発銀行・アジア開発銀行研究所が共催するワークショップでISSBに関するプレゼンテーションを実施し、議論への参加も行った。引き続き、2025年に開催されるワークショップでは、より深くIFRS財団も内容面から関与し、アジア各国から参加する参加者に対するIFRS基準の理解の獲得、浸透をめざしたいと考えている。
今後も、関係各位のご協力の下、活動を展開できればと願っている。引き続きのお力添えを心からお願い申し上げる。