公開日: 2025年1月30日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 経理部 Group Controlling Division 部長
ワンポイント
2024年11月のGPF会議では、IFRS第16号「リース」の導入や適用について、IASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。
はじめに
2024年11月15日、世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、以下「GPF」という。)が開催された。GPFは財務諸表作成者の代表者からなる会議体で、作成者の立場から、IASBに対して定期的にインプットすることを目的としている。GPFのメンバーは20名(2024年11月末現在)で、ヨーロッパ9名、北米3名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア5名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。
今回の会議も、前回に引き続き、ロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となった。日本からは筆者がロンドンにて対面で参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、GPFメンバーとの意見交換が行われた。
以下が当日の議事一覧であり、このうち、IFRS第16号「リース」適用後レビューについての主な討議内容を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能であるため、適宜参照頂きたい。
- IASB・IFRS解釈指針委員会アップデート
- IFRS第16号「リース」適用後レビュー
- キャッシュフロー計算書とその関連事項
- 持分法
- ISSBアップデート
- 財務諸表における気候関連及びその不確実性
IFRS第16号「リース」適用後レビュー
背景
IASBは 、IFRS第16号「リース」(以下「IFRS第16号」という。)の適用後レビュー(以下「PIR」という。)を行うことを2023年12月のボード会議において決定し、2024年6月より開始している。PIRは、基準が重要な問題なく開発時に意図した通り機能しているか、また、実務での適用上の課題がないかについて、確認・評価することを目的としている。スケジュールとしては、2024年下期にGPFを含むIASBの諮問グループとの会合を実施、その内容を踏まえて2025年上期にRequest for Information(以下「情報要請」という。)を公表し、IFRS第16号の要求事項について利害関係者から広く意見を求めることとしている。
GPF会議での議論
今回のGPF会議では、情報要請のスコープをIASBが決定する際の参考とするため、IFRS第16号の導入及び適用についてのGPFメンバーの見解がヒアリングされた。
IFRS第16号の全体的な評価についてGPFメンバーの意見は分かれた。財政状態計算書でリースを表現することは概念的に正しく、IFRS第16号によって財務情報の透明性が改善されたという声が聞かれる一方で、評価しない意見もあった。評価しない理由として、社内ではIFRS第16号が適用されていないかのような情報を経営層へ報告していることや、財務諸表利用者が企業の決算値を調整することでIFRS第16号適用前のデータを分析していることが挙げられた。当該調整の例として、リース負債をネットデットの計算に含めなかったり、リースの実態をより忠実に表現するためリース料支払額を財務キャッシュフローから営業キャッシュフローに組み替えたりしていることが指摘された。
IFRS第16号の導入によるベネフィットとコストという観点では、作成者及び利用者の双方にとってベネフィットがないのではないかとの指摘があった一方で、リースをファイナンスリースかオペレーティングリースかを分類することが不要になったことは実務負荷軽減の観点から有用であるとの声も聞かれた。
多くのGPFメンバーから、IFRS第16号の導入は、数多くの契約に新しい会計モデルを適用し、重要な会計上の判断について整理を行い、さらにはITシステムの更新も必要となるなど、大変なコストがかかった、という声が聞かれた。一方で導入後のランニングコストについては意見が分かれた。ランニングコストが高いと答えたGPFメンバーの意見としては、USのSOX対応などリース会計に係る内部統制を維持しなければならないことや、それに伴う監査工数も継続してかかっていることなどが聞かれた。また、IFRS第16号とUSGAAPとの差異によって比較可能性が損なわれることで作成者全体のコストが増大していること、また、特に割引率やリース期間の決定に際して企業ごとの判断を伴うことにより比較可能性が損なわれているとの指摘もあった。移行措置については、免除規定の存在によって実務負荷への配慮がされていることを評価する声もあった。
来る情報要請では適用上の課題をきちんと手当てすべきという声が多く聞かれた。例えば、少額資産の基準値の例として示されている5千米ドルに係る記載は有用ではないので削除すべきとの意見が出された。また、同様に、少額資産ではない例として自動車に言及されている点も指摘された。いずれも、貨幣価値は国や地域の経済水準や経済実態によって異なるはずであるが、実務がそのような記載に縛られてしまい、結果として本来あるべきではない会計処理の多様性が生じている、また、原則主義であるIFRSにそのような特定の記載を含めるべきではない、という意見であった
各セッションにおけるGPFメンバーからのフィードバックは、今後のIASBの審議において考慮される予定である。
おわりに
リース取引は様々な業種や業態に影響するため、GPFメンバーの関心が高く、当日は非常に活発な意見交換がなされた。気になったのは、作成者が多大なコストをかけて導入した会計基準であるにもかかわらず、作成者自身がそのメリットをあまり享受できておらず、利用者もそのままの数値ではなく調整をかけた数値を使っているという指摘があったことである。もちろん、それらはGPFメンバーの一面的な見方であったり何らかの事実誤認があったりする可能性はある。そのような意味においても、今後の情報要請のプロセスにおいて事実関係がきちんと洗い出され、それを踏まえて今後の改善につながるアクションが提示・実行されることを期待している。
筆者略歴
富士通入社後、海外の事業管理を経て、2002年に米国子会社へ駐在し現地の管理会計を担当。帰国後、本社にてグローバルでのIFRS適用プロジェクトに従事。2010年に企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。さらに2012年に英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通本社の財務経理部門にて、富士通グループの財務会計をグローバルで統括。
ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員 世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー