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IFRSワンポイント・レッスン 第34回 _GPF/CMAC合同会議(2024年6月)での議論

公開日: 2024年7月31日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 経理部 Group Controlling Division 部長

ワンポイント

 ビジネスの進化やテクノロジーの進歩により新しい取引や商品が日々登場しており、その中には無形的な価値を有するものも存在する。企業が有する無形の価値はIAS第38号「無形資産」に従って財務諸表に表現されるが、IAS第38号は20年以上前に開発されたものであるため、ステークホルダーからは現在のビジネスモデルに合わせて基準を見直すべきとの声が多く聞かれており、IASBが調査を進めている。

 2024年6月のGPF/CMAC合同会議では、IAS第38号の問題の所在や調査のスコープなどについて、IASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。

 文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。

はじめに

 国際会計基準審議会(IASB)の世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)と資本市場諮問委員会(Capital Market Advisory Committee、CMAC)との合同会議が、2024年6月13日と14日の2日間にわたり開催された。

 GPFは財務諸表作成者の代表者から、CMACは財務諸表利用者の代表者から、それぞれ構成される会議体で、作成者及び利用者双方の立場からIASBに対して定期的にインプットすることを目的としている。筆者がメンバーを務めるGPFは総勢20名(2024年6月末現在)で、ヨーロッパ9名、北米3名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア5名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。

 今回の会議も、前回に引き続き、ロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となったが、グローバルでの往来が通常に戻ったことにより、筆者も含め多くのメンバーが対面で参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、以下の議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、CMAC メンバーとGPFメンバーとの意見交換が行われた。本稿では、「無形資産」に関する当日の主な議論を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能である。

  • IASBアップデート
  • 無形資産
  • キャッシュフロー計算書とその関連事項
  • 公的説明責任のない子会社開示
  • 企業結合-開示、のれん及び減損
  • 再生可能電力に係る契約

無形資産

背景

 IASBの作業の優先事項を定める第3次アジェンダ協議において、無形資産に関する調査が今後のプロジェクトとして追加され、2024年4月より当該プロジェクトがスタートした。

 第3次アジェンダ協議における各方面からのフィードバックは以下の通りであり、概して、無形資産プロジェクトの優先度は高く位置づけられていた。

  • 利用者は、認識された無形資産だけではなく認識されなかった無形資産についてのより良い情報も必要としている
  • IAS第38号「無形資産」は古い会計基準であり、最近では暗号通貨やSaaSのようなIAS第38号が開発されたときには想定されていなかった新しいタイプの取引が増えているため、現在のビジネスに合わせて近代化させる必要がある
  • 内部創出無形資産の認識や再評価モデルの適用が制限されすぎている
  • 内部創出無形資産と取得無形資産とで要求事項が異なっているため比較可能性に欠ける

 IASBは、調査の最初のステップとして、解決すべき問題やプロジェクトのスコープ・進め方といった点について、各種諮問機関やステークホルダーに相談しながら決めていくこととしており、GPF/CMAC合同会議でもそれらの点について議論がなされた。

GPF/CMAC合同会議での議論

 一部のGPFメンバーより、現行の財務諸表では内部創出無形資産に関する情報が十分に提供されておらず、認識の要件を広げる必要がある、また、内部創出無形資産をより認識することによって将来に寄与する費用と当期の営業に係る費用との区別が明確になる、との意見が出された。一方で、多くのGPFメンバーからは、信頼性のある測定技法や無形資産を認識することによる償却や減損損失によるPLへの影響など、認識要件を広げることにより実務面での課題が生じることについての懸念が示された。

 認識要件を広げることには反対しつつも、IAS第38号は現在のビジネスモデルにフィットするように刷新されるべきであるとの意見も出された。また、適用ガイダンスの充実については非常に多くの要望が出され、例えば「支配」の考え方やクラウドコンピューティングなど特定のビジネスに関する実務指針を拡充して欲しいとの意見が聞かれた。

 内部創出無形資産と企業結合で取得された個別に識別可能な資産との認識要件の一貫性を考えるべきという意見や、無形の要素を含む収益を生じさせる契約についてのIAS第38号とIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」との適用の関係性を整理すべきといった意見も聞かれた。

 公正価値での測定は見積りの複雑さや多くの判断を伴うため、原価での測定を望む声が多く聞かれた。また、暗号通貨やカーボンクレジットは無形資産というよりは金融資産の性質を有するため、IAS第38号のスコープからは除外すべきであるとの声も聞かれた。さらに、開示については、現行の財務情報が不十分であるため開示要求を拡大すべきとの意見も一部で出されたものの、ほとんどのGPFメンバーが追加的な開示要求には否定的であった。

 CMACメンバーの多くは、利用者が企業の市場価値と帳簿価値とのギャップをより理解することができるよう、無形資産に関するより多くの財務情報が提供されるべきであるとのスタンスであった。したがって、フォーカスすべきは、より多くの無形資産を認識することではなく、開示の重要性を評価することであるとの声が聞かれた。例として、企業の将来の業績にどのように貢献するかという観点で、認識されなかった無形資産に関する財務情報の開示を希望する意見が出された。

 プロジェクトの進め方について、IASBからは、すべてのトピックを同時並行で検討する方法、優先順位をつけて取り組む方法、フェーズごと(例えば認識、測定、開示)に進める方法の3つが提案された。どれも一長一短あり、GPF/CMACメンバーからは色々な意見が出されたが、概ね、重要論点をタイムリーに解決できるという観点から、優先順位をつけて取り組む方法が指示された。他の2つについては、すべてを同時に進めると時間がかかりすぎる、フェーズアプローチを取るとフェーズ間の関係性や一貫性がなおざりになる、という意見が聞かれた。

 なお、各セッションにおけるGPF/CMACメンバーからのフィードバックは、今後のIASBの審議において考慮される予定である。

筆者略歴

富士通入社後、海外の事業管理を経て、2002年に米国子会社へ駐在し現地の管理会計を担当。帰国後、本社にてグローバルでのIFRS適用プロジェクトに従事。2010年に企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。さらに2012年に英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通本社の財務経理部門にて、富士通グループの財務会計をグローバルで統括。

ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員 世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー