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IFRS財団の最新活動情報_ますます必要となるエンゲージメントとその展開

公開日: 2024年4月30日

 筆者: 芝坂佳子氏 IFRS財団アジア・オセアニアオフィス ディレクター

 今年は、暖冬であったにも関わらず桜の開花が平年より遅れ、また、満開の時期が短く、瞬く間に葉桜の季節となってしまった。昨今はあらゆるところで気候変動の影響が実感される。特に、気候変動課題が社会や企業の活動にも大きく影響し、経営の意思決定に影響する要素の複雑化も顕著であり、事業継続性の観点からも、ますますリスクマネジメントの要諦となってきている。

 IFRS財団は、投資家の意思決定に貢献するためのより良い情報の提供に資する基準の策定をその任としている。意思決定に必要とされる情報が変われば、当然のことながら、それにふさわしいツールが必要とされてくるわけで、IFRS財団、そして、アジア・オセアニアオフィスの活動にも新たな施策の展開が必要となると自認し、これまでとは異なる施策を検討しているところである。

 2024年1月から3月にかけての活動を振り返ると、国際会計基準審議会(IASB)及び国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の両ボード、並びに財団そのものにも、新たな時代の企業報告に貢献するツールの開発と提供につながる大きな動きがあったと感じている。

あらためて確認されたコネクティビティの必要性

 2023年に行われたISSBパブリックコンサルテーションを通じて明らかになったことの一つに、IASBとISSBのコネクティビティが大切とする意識の高いことであった。そもそも、IFRS財団がISSBを設立した背景には、財務情報と財務情報に関連するサステナビリティ情報が一体化した報告として、よりよい情報提供のガイドラインに向けたステークホルダーの期待が存在したのであり、あらためて、その必要性が明確になったと考えることができる。

 1月25日には初めてのIASBとISSBの合同ボード会議が開催された。通常より両ボード会議はインターネットでライブ配信されているため、ご覧になった方も多いのではないだろうか。この会議では、Integration in Reporting(報告における結合)とコネクティビティの二つのテーマについて、意見交換がなされた。

 両ボードとも様々な領域における多様性を重視した人員構成となっており、当然のことながら、二つのテーマに対する捉え方も異なってくる。しかし、IFRS財団に位置し、同じマテリアリティ概念を有する組織として、資本市場からの期待に応えるためにも、コネクティビティを意識した基準開発が将来にかけて必要であることを確認する場となった。

 今後は、基準開発のプロセス、提供される基準そのもの、さらには実際の企業報告に記載される情報におけるコクティビティを踏まえた取り組みがなされることを期待したい。本件については、IFRS財団のウェブサイト上で動画や記事が掲載されているので、ぜひ、ご覧いただきたい。[i-1] [i-2]

IASB議長アンドレアス・バーコウの来日

 3月11日から15日の1週間、IASB議長のアンドレアス・バーコウが来日し、多くの関係者の方と面談し、充実した意見交換の場を設けることができた。来日の際にいただいたご厚情に改めて感謝を申し上げたい。  

 かねてより、IASB議長は年に一度来日し、IFRS基準をご利用いただいている日本の関係者のみなさまと意見交換を行い、関係性を重視してきている。特に、今回の来日においては、4月以降に予定している二つの基準の公表を控え、IFRS会計基準の役割や取り組み、プロジェクトの方向性や目的等について、企業報告作成の当事者である企業の方々と直接にお目にかかり、対話をさせていただくことを重視した日程となった。頂戴したご意見等は、企業報告の重責を担っておられるCFOのみなさまにとっての有益なツール策定に向けた議論に極めて貴重なものとなる。アジア・オセアニアオフィスとしても、今後も、様々な機会を通じて、建設的な対話の促進を進めていきたいと願っている。

新たな公開草案と会計基準の公表

 バーコウ議長の来日直後に、新たな公開草案「企業結合―開示、のれん及び減損」[]が公表された。さらには、新たな会計基準としてIFRS第18号「財務諸表の表示及び開示」[]も公表された。IASBの活動は、基準策定にとどまるものではなく、その維持管理や適用上の課題にむけた施策の展開も含んだものである。両文書ともこれまでの多くの関係者の方々との対話を活かしたものとなっているが、これは日本の関係者だけではない。このため、この度の公開草案に続く最終化に向けた作業や、公表された会計基準の適用に向けて、日本においても継続的な活動を続けていく所存である。

 7月初旬には、IASBボードメンバーによるIFRS第18号についてのセミナーなども、関係のみなさまのお力添えにより企画されているところである。ぜひ、今からご予定いただき、実務に役立てていただきたい。より適切な基準の適用に向けた一助になれば、と考えている。

ISSBによる積極的な周知活動

 本年1月に発効したISSBのS1とS2に関し、理事やテクニカルスタッフを中心に、多くの組織のご支援により、積極的な周知活動が継続できていることを感謝したい。いずれのセミナー等にも実務家のみなさまを中心に、多数のご参集をいただいており、頂戴したご意見や疑問などは、活動の大きな力となっている。

 2月には、昨年のモントリオールに引き続き、第二回目となるIFRSサステナビリティ・シンポジウムがニューヨークで開催された。今後のアドプションに向けたJurisdiction Guideのプレビュー版[]が公表されている。  

 今後ともステークホルダーの方々との建設的な関係性をもとに、グローバルベースラインとして機能する気候関連の次の基準策定に向けて尽力する所存である。広く関心をもっていただいている次のアジェンダであるが、現在、頂戴したご意見の分析途上であり、今年前半までにはボードでの決定が予定されている。

国内のサステナビリティ開示基準動向

 3月最終週には、SSBJのサステナビリティ開示基準の公開草案が公表され、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」第1回も開催された。今後の法定開示を見据えて、我が国における開示基準のあり方を巡る様々な議論が予想される。アジア・オセアニアオフィスとしても引き続き、議論の動向を見守りつつ、情報発信を行っていきたいと考えている。

おわりに

 IFRS財団アジア・オセアニアオフィスオフィスは、日本だけでなく、アジアオセアニア地区全体のエンゲージメント拠点として機能を今後高めていきたい。そのためには、様々な国際機関やネットワークとの協業の促進も必要であると考えている。ぜひ、引き続きの支援ご鞭撻をお願い申し上げたい。


[ⅰ-1] Webcast: Connections between accounting and sustainability disclosures

[ⅰ-2] Article: Connectivity―what is it and what does it deliver? 

[ⅱ] https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/project/goodwill-and-impairment/exposure-draft-2024/iasb-ed-2024-1-bcdgi.pdf  

[ⅲ] IFRS – IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

[ⅳ] preview-of-the-jurisdictional-adoption-guide.pdf (ifrs.org)