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IFRSワンポイント・レッスン 第33回 _GPF会議(2024年3月)での議論

公開日: 2024年4月30日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 経理部 Group Controlling Division 部長

ワンポイント

 2024年3月のGPF会議で、金融商品プロジェクトをはじめとしたIASBの取組みについて、GPFメンバーとIASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。

 文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。

はじめに

 2024年3月1日、世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、以下「GPF」という。)が開催された。GPFは財務諸表作成者の代表者からなる会議体で、作成者の立場から、IASBに対して定期的にインプットすることを目的としている。GPFのメンバーは19名(2024年3月末現在)で、ヨーロッパ8名、北米3名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア5名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。

 今回の会議も、前回に引き続き、ロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となった。日本からは筆者がロンドンにて対面で参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、以下の議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、GPFメンバーとの意見交換が行われた。本稿では、当日の主な議論を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能である。

  • 財務諸表における気候関連及びその他の不確実性
  • 企業結合-開示、のれん及び減損
  • 資本の特徴を有する金融商品
  • サステナビリティ開示基準に関するアップデート

資本の特徴を有する金融商品

背景

 IASBは、2023 年11 月29 日に公開草案「資本の特徴を有する金融商品(IAS 第32 号「金融商品:表示」、IFRS 第7 号「金融商品:開示」及びIAS 第1 号「財務諸表の表示」の修正案)」(以下「ED 」という。)を公表した(コメント期限は2024 年3 月29 日で終了)。

 IAS 第32 号は、金融商品の負債又は資本としての表示及び金融資産と金融負債の相殺に関する原則を確立することを目的としており、発行者の視点からの、金融商品の金融資産、金融負債及び資本性金融商品への分類、関連する利息、配当、損失及び利得の分類、並びに金融資産と金融負債とを相殺すべき状況、に適用される。IAS 第32 号の原則は、IFRS 第9号「金融商品」における金融資産及び金融負債の認識及び測定に関する原則、並びにIFRS 第7号における金融商品及び金融負債に関する情報開示の原則を補足するものとされている。

 近年、金融の技術革新、市場の原理及び金融セクター規制の変化に伴い、金融負債と資本の両方の特徴を有する複雑な金融商品が増加したことにより、企業が IAS第32 号を適用して金融負債と資本性金融商品とを分類する際に実務上の課題が生じている。これを受けて、IASB は、金融負債と資本性金融商品の間の分類に関する原則をより明確にし、関連する要求事項の一貫性、完全性及び明瞭性を改善するため、ディスカッション・ペーパー「資本の特徴を有する金融商品」(以下「DP 」という。)を2018 年6 月に公表した。

 DP では、金額の特性、時点の特性の2つの観点から金融負債と資本性金融商品の間の分類を決定するアプローチが提案されたが、市場関係者からのフィードバックが様々であったため、IASB は当該アプローチを追求しないこととし、その代わりに、IAS 第32 号の基本的な考え方を維持しつつ、実務上の論点に対処するために、IAS 第32 号における分類の要求事項の明確化に焦点を当てることとした。また、分類だけでは捕捉できない情報の充実を図るため、DP で好意的なフィードバックが寄せられた表示及び開示の改善を進めることとした。

 EDでは、これらの点を踏まえた改正が提案されている。

GPF会議での議論

 今回のGPF会議では、EDにおける改正案が、資本の特徴を有する金融商品に関する有用な情報を提供することにつながるか、改正案における要求事項を適用する際の実務上の困難さはないか、要求事項を適用することによって意図せざる帰結が生じないか、といった点について、GPFメンバーの意見が求められた。

 GPFメンバーからは、デリバティブについての固定対固定の条件、永久債、企業自身の資本性金融商品を購入する義務、株主の裁量、金融負債と資本性金融商品の分類変更、条件付決済条項など、主に分類についての意見が出された。

 固定対固定の条件については、いくつかの法域、特に新興国市場においては、金融商品は発行者自身の機能通貨ではなく米ドルのようなより強い通貨建てで発行されることが多く、そのような金融商品が固定対固定の条件を満たさないことにならないかという懸念が示された。為替変動リスクをヘッジすることが固定対固定の条件を満たす効果を有するかといった質問もあった。

 永久債については、法域によっては、段階的に増える利払いを回避するために発行体が最初の償還日に償還するケースがほとんどであるため金融負債としてみなされている、というコメントが出された。永久債を資本性金融商品として分類するにあたっては、発行体に償還する義務があるかどうかではなく、発行体が償還する可能性があるかどうかで判断すべきではないかとの意見も出た。

 企業自身の資本性金融商品を購入する義務を再測定することから生じる利得又は損失を純損益に認識することについて、反対の意見が出された。当該義務は自身の資本性金融商品を購入することに関連する特別な債務であり、再測定による利得又は損失は実際の(realな)純損益とは言えない、という考え方に基づくものである。

 金融商品を金融負債又は資本性金融商品に分類するにあたって、企業は、契約上の義務を決済するために現金又は他の金融資産を引き渡すことを回避する無条件の権利を有しているかどうかを考慮することとされ、無条件の権利を有していない場合には原則として金融負債に分類するとされている。そうした決済の中には企業の株主の裁量で行われるものがあり、株主の意思決定を企業の意思決定として扱うべきかどうかが論点となっているが、EDでは、一律のアプローチを示すのではなく、企業がいくつかの要素を考慮して判断することが提案されている。この点について、GPFメンバーより、例えば当該要素のひとつである「意思決定の性質が日常的かどうか」の解釈が難しいため、企業が適切な判断を行うための教育的文書やガイダンスを用意すべきではないかとの意見が出された。

 金融負債と資本性金融商品の分類変更については、金融負債の特徴が時の経過とともに消失した場合(例えばプットオプションの期限満了)においても当該金融商品を金融負債として分類し続けることは、利用者にとっての有用な情報を提供することにならないのではないかという懸念が示された。

 条件付決済条項を含む金融負債について、EDでは、条件とされる事象が起こる可能性や見込まれる時期は当該金融負債の測定においては考慮しないという提案がされているが、GPFメンバーから、それらを考慮しないことはIFRS第9号における公正価値測定の例外となると考えられるため賛成しないとの意見が出された。

 なお、各セッションにおけるGPFメンバーからのフィードバックは、今後のIASBの審議において考慮される予定である。

筆者略歴

富士通入社後、海外子会社の事業管理を経て、2002年から2005年まで米国駐在。帰国後、IFRS推進室にて全社IFRS適用プロジェクトに従事。2010年企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。2012年英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通の本社経理部門にて、富士通グループの財務会計を統括。

ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員 世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー