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IFRS財団の最新活動情報_ 2024年を迎えて

公開日: 2024年1月31日

 筆者: 芝坂佳子氏 IFRS財団アジア・オセアニアオフィス ディレクター

はじめに

新しい龍の年2024となった。旧年中のIFRS財団への多大なるご支援を感謝するとともに、本年も変わらぬご高配を賜りますよう、衷心よりお願い申し上げる次第である。

年を開けてすぐに、心痛む出来事が発生した。お亡くなりになられた方々に哀悼の意を表するとともに、被害にあわれ不自由な生活を余儀なくされているみなさまにお見舞いを申し上げる。また、被災者の支援等を始め、様々な対応に心と体で従事しておられる方々のお働きにも感謝を申し上げたい。

改めて、平素の備えの大切さと危機管理の必要性、さらには、あらゆる場面でカギとなる正確で信頼できる情報、それを用いたコミュニケーションの大切さを知らされた思いである。私たちをとりまく環境は、ますます複雑化するだけでなく、そのスピードも加速している。さらには、情報技術の進化により、多様なチャネルが浸透し、ますます組織が発信する情報の信頼性が求められると同時に、発信する主体のインテグリティの質が受信者の行動に大きく影響する状況にある。

IFRS財団は、資本市場の意思決定や行動に資する情報の提供、すなわち「Better Information for Better Decisions」のパーパスの下、本年も様々な活動を展開していく予定である。年頭にあたり、国際会計基準審議会(IASB)及び国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)両ボードの2023年の活動を振り返り、現在、予定されている2024年の活動について、ご紹介をしていきたい。

新たな展開が加速するIASB

IASBにとって、2023年は国際的な協力によって、IFRS会計基準が始まって50年となる記念すべき年であった。その間、グローバル経済の拡大とともに、統一した基準による報告への希求も高まり、現在、数多くの国および法域で、国際会計基準が活用されている。日本は、設立当初より具体的に貢献を続けている国の一つとなっている。

2024年には、これまでの関係者との協力や信頼関係のもとに、より改善された財務報告につながる2つの基準が新たな段階に進む予定である。

一つは、IFRS第18号による財務諸表における表示及び開示に関する新しい会計基準である。これは、従来のIAS第1号「財務諸表の表示」と差し替わり、投資家のより適切な意思決定に資することが期待されている。

もう一つは、IFRS第19号で、適格子会社に対する開示を削減する会計基準である。これは、財務報告にかかるコスト削減につながるものとなっている。

さらには、日本企業にとって極めて関心の高い「企業結合―開示、のれん及び減損」のプロジェクトも進行中であり、今年の第一四半期に公開草案を公表する予定である。ぜひ、多くのご意見をお寄せいただき、企業の価値向上にとって有効な手段のひとつであるM&Aに関わるよりよい報告につながる基準の形成をご支援いただきたい。

承認の拡大と次のステップにむかうISSB

次に、ISSBの2023年の総括と、本年2024年の活動についてご紹介する。

2023年は、ISSBの初めての基準であるIFRS S1号とIFRS S2号を、6月に発行することのできた記念すべき年であった。また、それ以外にも、7月には、証券監督者国際機構(IOSCO)が加盟国に対して、それぞれの規制枠組みへの組み込み可能性の検討を通じ、サステナビリティに関わる開示の一貫性と比較可能性の提供にむけた奨励を表明している。さらには、金融安定理事会(FSB)が気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の活動を総括し、気候関連財務開示をISSBに組み込む等の発表があった。

様々なフレームワーク等による「アルファベットスープ」状況から生じる混乱等を軽減するために、欧州委員会、欧州財務報告諮問グループ (EFRAG)、ISSBによる、欧州基準、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)、ISSBの基準間の高度な整合性と総合運用性の確認なども、衆目を集めた。

加えて、今後の優先事項に関する公開協議の開始も、大きなマイルストーンであったと考えている。

2024年は、日本で検討が進んでいる日本のサステナビリティ報告基準の第1号と第2号の公開草案が3月頃に公表される予定であり、サステナビリティに関わる報告をめぐり、企業価値の向上につながる建設的な議論の展開が想定される。ISSBは、これまで以上に関係者との連携を密にし、キャパシティビルディングや、より多くの国々や法域で承認の獲得にむけたイニシアティブを推進する予定となっている。

これからの報告につながるコネクティビティ

最後に、投資家が求めている意思決定に貢献する報告のあり方を実現するための、コネクティビティの取り扱いがある。ISSBの取り扱うサステナビリティ情報が、「Sustainability related Financial Information」であることが、資本市場における活用において、大きな意味があると考える。だからこそ、財務会計基準の開発について豊富な経験を有するIFRS財団が、サステナビリティに関わる報告基準の開発を担う意義もあるのだ。

IFRS財団を構成する2つの審議会は、2023年3月に「財務諸表における気候関連及びその他の不確実性」リサーチプロジェクトを開始している。これは、IASBがISSBのテクニカルな支援を受けて2つの基準について関連付けを促進し、連携することを目指す動きの具体的な現れである。

さらに、ISSBが行った今後の優先事項に関する公開協議の中に、生物多様性関連事項(生態系及び生態系サービス)、人的資本、人権に加え、報告における統合のあり方に関する研究プロジェクトがある。また、2024年1月には、IASBとISSBによる初めての合同ボード会議が開催されることになっている。今後の優先順位の決定までには半年程度の時間を用い、様々な検討が行われる予定である。ぜひ、議論の内容に関心を持っていただくと同時に、様々な立場からのフィードバックやご意見をお寄せいただきたい。

おわりに

広く受け入れられ、活用される基準設定のためには、関係者間の建設的な共創関係が大きな力になっていくと確信している。

例えば、IASB もISSBもボードミーティングの様子をインターネットで公開しており、資料等も入手可能となっている。透明性の高い議論こそが、グローバルベースラインとなる基準設定に不可欠な要素だからだ。

日本に拠点を置くアジア・オセアニアオフィスとして、より一層情報やコミュニケーション、キャパシティビルディングの拠点として貢献できるように活動して参りたい。日本語でコミュニケーションが可能でもあり、ぜひ、ご活用をいただきたいと切に願っている。