お問い合わせ

IFRSワンポイント・レッスン 第32回_ GPF会議(2023年11月)での議論

公開日: 2024年1月31日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 経理部 財務企画部長

ワンポイント

 2023年11月のGPF会議で、基本財務諸表プロジェクトをはじめとしたIASBの取組みについて、GPFメンバーとIASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。

 文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。

はじめに

 2023年11月10日、世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、以下「GPF」という。)が開催された。GPFは財務諸表作成者の代表者からなる会議体で、作成者の立場から、IASBに対して定期的にインプットすることを目的としている。GPFのメンバーは19名(2023年12月末現在)で、ヨーロッパ8名、北米3名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア5名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。

 今回の会議も、前回に引き続き、ロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となった。日本からは筆者がロンドンにて対面で参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、以下の議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、GPFメンバーとの意見交換が行われた。本稿では、当日の主な議論を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能である。

  • 基本財務諸表プロジェクト
  • 財務諸表における気候関連及びその他の不確実性
  • 持分法
  • ISSBアップデート
  • 適用後レビュー:IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

基本財務諸表プロジェクト

 IASBは、基本財務諸表プロジェクトについて、2019年12月に公表した公開草案「全般的な表示及び開示」に対して寄せられたコメントを踏まえ、基準策定に向けた再審議を行っている。新基準は、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」として2024年第2四半期に公表され、2027年1月1日より開始する事業年度より適用される見込みである。

 今回のGPF会議では、IASBよりGPFメンバーに対して、プロジェクトの検討状況についてのアップデートが行われた。

 GPFメンバーからは、全般的に、本プロジェクトにおけるIASBの取組みを評価する意見が聞かれた。また、仮にIASBがGPFメンバーからの提案をすべて採用しなかったとしてもIASBの結論を支援する旨のコメントも出されるなど、概して新基準に対するポジティブな意見が聞かれた。

 IFRS第18号の適用時期について、適用開始日よりも前に企業が適用することができるかどうかについて意見が交わされた。GPFメンバーからは、サステナビリティ関連のディスクロージャーやOECDによる国際税制改革である第2の柱のモデルルールへの対応など優先して取り組むべき案件があること、また、IFRS第18号で新たに定められる要求事項への対応に時間を要することから、早期適用する企業は少ないであろうとの意見が多く聞かれた。

財務諸表における気候関連及びその他の不確実性

 IASBは、財務諸表における気候関連及びその他の不確実性についての情報提供が不十分であり一貫性に欠けているという懸念を受け、設例・教育文書の開発や関連するIFRS基準の改訂などの今後取り組むべきアクションを検討している。なお、本プロジェクトでは、気候関連リスクについての新しい基準を開発することは意図されていない。また、財務諸表の目的を拡大すること、資産・負債の定義を変更すること、排出物価格設定メカニズムに関する会計処理の要求事項を開発することのいずれも、本プロジェクトのスコープの対象外である。

 今回のGPF会議では、IASBよりGPFメンバーに対して本プロジェクトの検討状況をアップデートするとともに、プロジェクトの方向性についての意見が交わされた。

 GPFメンバーからは概ね本プロジェクトの方向性をサポートする意見が出された。多くのGPFメンバーは、新たな基準設定には反対したものの、利用者の懸念に対応するための気候関連に特化した事例の開発については賛成した。それらの事例をIASBの設例の一部として基準書に含めることで、より開示の透明性が高まるとの声もあった。

 また、GPFメンバーから、どのような情報が財務諸表に含まれ、どのような情報がサステナビリティ関連の開示に含まれるかをより明確にするため、財務諸表の役割に関する教育文書を開発すべきではないかという意見も出された。

適用後レビュー:IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

 IASBは、デュー・プロセスの一環として、IFRS第15号の適用後レビューに着手しており、IFRS第15号の要求事項について利害関係者から広く意見を求めるためRequest for Information(情報要請)を公表していた。適用後レビューは、基準が重要な問題がなく開発時に意図した通り機能しているか、また、実務での適用上の課題がないかについて、確認・評価することを目的としている。

 今回のGPF会議では、情報要請に寄せられた事項も踏まえ、IASBからGPFメンバーへ、今後取り組むべき事項の優先順位やそれら事項を解決するための提案についての照会が行われた。

 まず、多くのGPFメンバーは、IFRS第15号はその目的を達成しており、うまく機能しているため、根本的な変更は不要であるとの見解であった。

 その上で、一般的な実務上の課題として、契約における履行義務の識別と企業が本人であるか代理人であるかの決定の2つの論点が挙げられた。多くのGPFメンバーは、それらの課題は企業のビジネスモデルや財又はサービスの提供に係る契約条件の複雑さに起因しているとの考えを示した。また、それらの論点に係る判断の程度が大きくなる場合は、企業間での結論に不整合が生じる可能性があるとの指摘もなされた。それらの課題に対処するため、一部のメンバーから、業種特有の事例の追加や判断に至るまでの考え方の公表といった対応策が提案された。

おわりに

 IFRSの財務諸表に関する新基準であるIFRS第18号の公表が近づいてきている。PLでの新たな小計の導入、機能別表示を採用している場合の性質別情報の開示、経営者業績指標(MPM)に関する情報開示など、実務で検討すべき事項は多いと思われる。法令開示だけではなく、社内管理や決算発表の見せ方にも影響すると思われるため、早めの検討を行いたい。

筆者略歴

富士通入社後、海外子会社の事業管理を経て、2002年から2005年まで米国駐在。帰国後、IFRS推進室にて全社IFRS適用プロジェクトに従事。2010年企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。2012年英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通の本社経理部門にて、富士通グループの財務会計を統括。

ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員 世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー