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IFRS財団の最新活動情報_ アジア・オセアニアオフィスディレクターの交代にあたって

執筆日: 2023年11月16日

 筆者: 芝坂佳子氏 IFRS財団アジア・オセアニアオフィス ディレクター

 2023年11月1日付で、高橋真人氏の後任としてIFRS財団アジア・オセアニアオフィス(AOオフィス)のディレクターに就任した。過去10年以上にわたり、日本はもちろんのこと、アジア・オセアニア、さらには、グローバルにおける企業報告の有用性の向上に貢献し続けてきたAOオフィスに関わることの重責に身の引き締まる思いである。

 就任にあたり、これまでの業務を通じて自らが与えられてきた日々の中での経験を踏まえ、これからの働きへの思いをお伝えしたい。私は、1995年頃より、「見えざるもの」を企業価値に結びつけるための活動に関与してきた。2003年頃からは、企業内の活動だけでなく、コミュニケーションを通じてステークホルダー間の共創を促し、包括的な企業価値や社会価値の向上の実現とそれにつながる行動の促進のために、多くの人々や組織との関わりを許されてきた。

 失われた10年が20年となり、いまや30年とさえ言われている。振り返ってみても、私が「見えざるもの」に関わり始めたころに覚えた課題の背景と、今の組織が直面している問題の根本は、あまり変わっていないようにさえ感じている。しかし、新型コロナウイルスに起因するパンデミックが、企業それぞれで異なるリスクマネジメントの課題を顕在化させ、さらには、「新しい日常」を生み出したように、現在は、数百年に一度といわれる変化が、あらゆる人々の生活の中で実感されてきている。そのような中で、企業が社会から選ばれ、あるいは、企業が目指す社会的存在として輝くためには、今、グローバルで興隆している企業報告変革の動きを契機として活かし、競争力のある組織の形成につなげることができるのではないかと感じている。

 「見えざるもの」や社会や環境等外部要因の企業経営に対する影響は、長期にわたる研究テーマであり、同時に企業経営者が常に熟考してきたことではある。特に、21世紀初頭から、経済や社会の課題と企業価値との関連性についての様々な研究が進み、さらには国際的なイニシアティブも多く誕生した。2022年1月からスタートした国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の活動は、取り組むべき課題の深さや多様性から生じてしまった「アルファベットスープ」の状態を改善するともに、培ってきた成果も活かしつつ、あらゆるステークホルダーの共通目標である持続可能な社会の実現に貢献できる「共通言語」の導入のためのターニングポイントになったと考えている。

 AOオフィスは、ISSBのスタートと同時に移行したマルチローション体制の中で、ロンドン以外で唯一国際会計基準審議会(IASB)、ISSB、そしてこの2つの基準を繋げて包括的な企業報告を実現するためのイニシアティブに関わる専門家が活動している拠点である。これまでの10年の歴史を土台にして、他組織にはない個性を活かした貢献が求められていると思っている。

 この3つの取り組みは、企業価値向上につながる企業報告について、それぞれ異なる特性を有している。財務報告、サステナビリティ関連財務報告、そして、統合報告は、それぞれ独立して存在するものではない。なぜなら、企業活動は組織の中に、多様な機能と側面を内包し、さらには価値を創出しているからだ。また、企業は社会に存在する資源を委託されている存在である故に、過去から現在、さらには将来を見据えたステークホルダーとの関係性の構築も「持続可能」であるためには不可欠であろう。

 今回の就任にあたり、多くの関係者の方にお目にかかる機会をいただけている。課題が複雑かつ多様で、さらには、中長期的な視座が、今後ますます必要となってくる中、これまでのグローバルでの基準設定をリードしてきたIFRS財団であるからこそ、果たしうる役割があることも実感している。

 AOオフィスは、大手町の中心「東京金融ビレッジ」にある。ぜひ、より良い社会、組織と人のWellbeingの実現に資する場、そして世界につながる場として存在できるよう努めていきたい。

 何卒一層のご指導ご鞭撻を賜りますよう、心よりお願い申し上げる次第である。

 

 

筆者: 高橋真人氏 IFRS財団アジア・オセアニアオフィス 前ディレクター 

 2023年11月1日、5年の任期を満了し、AOオフィスディレクターの職を辞した。後任には、芝坂佳子氏が就任した。離任にあたり、AOオフィスの歴史を振り返りながら、長年にわたるAOオフィスへのご支援に感謝申し上げたい。

 IFRS財団トラスティは、2008年ごろからサテライトオフィス構想を議論していたが、財務会計基準機構(FASF)が東京への招致を申し入れたのは2010年5月であった。当時日本は、2009年6月に金融庁が公表した中間報告「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書」に基づき、IFRS基準の強制適用が2015年ないし2016年から開始される方向にあった。しかし、東日本大震災を経て、2011年6月にその計画が突如撤回され、今日に至っている。AOオフィスは、そうした波乱の中、2012年10月に誕生した。

 強制適用は白紙に戻ったが、2010年3月期に始まった任意適用は継続された。このため、AOオフィスの役割は、第一に、我が国における任意適用の促進、第二に、アジア・オセアニア地域におけるIFRS財団の窓口、第三に、IASBの基準設定活動の支援とされた。

 IFRS適用企業数は、2012年当時はわずか10社であったが、2023年6月時点では269社となり、時価総額ベースでは、東証の時価総額の47.1%を占めるに至った。IFRS財団は、4基準併存という日本独自の制度に懐疑的であったが、10年間の成果を見て、今では強制適用に向けた有効なアプローチと評価している。

 2021年8月、FASFは、AOオフィスを国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が設置するマルチロケーションとして活用するようIFRS財団に申し入れた。これを受けて、ISSBは、フランクフルト、モントリオール、ロンドン、サンフランシスコとともに東京に拠点を設置することを決定した。

 現在のAOオフィスの役割は、第一に、アジア・オセアニア地域におけるIFRS会計基準とIFRSサステナビリティ開示基準の適用の促進、第二に、アジア・オセアニア地域におけるIFRS財団の窓口、第三に、IASBとISSBの基準設定活動の支援となっている。ISSBは、2023年に北京にも拠点を開設したが、IASB、ISSB両方の機能を備えた拠点は、ロンドンと東京のみである。

 2012年当初、AOオフィスは、ディレクターと秘書の2名体制であった。2014年7月からは、監査法人から会計士2名の出向を受入れ、4名体制となった。2022年8月からは、Value Reporting Foundation(VRF)に出向していた監査法人の会計士3名の出向を受け入れ、7名体制となり、ISSB小森理事と韓国出身のISSBパク理事がAOオフィスに配属され、AOオフィスの陣容は、9名体制となっている。

 IFRS財団は、AOオフィスをリエゾンオフィスとして設置したが、2023年2月に一般社団法人を設立し、9月に全業務を一般社団法人に移管した。AOオフィスの正式名称は、一般社団法人IFRS Foundationアジア・オセアニアである。

 筆者の在任中にIFRS財団を取り囲む環境は大きく変わった。その中で、AOオフィスがその機能と陣容を拡大しながら活動し続けることができたことを大変嬉しく思う。これもひとえに、市場関係者の皆様からの大きなご支持とご支援のお陰であり、この場をお借りして感謝申し上げたい。

 基本財務諸表プロジェクト(IFRS第18号の設定)にAOオフィスのスタッフが参画し、貢献できたのと同様に、ISSBの今後の基準設定にAOオフィスが参画し、貢献できることを願う。芝坂新ディレクターのリーダーシップのもと、AOオフィスがいっそう発展することを祈念する。

以 上