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IFRS財団の最新活動情報_ IFRS-S1、S2基準の公表とAOオフィスの役割

執筆日: 2023年7月11日
筆者: 高橋真人氏 IFRS財団アジア・オセアニアオフィス ディレクター

はじめに

 エマニュエル・ファベール氏の議長就任から1年半となる2023年6月26日、国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)は、IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)の最初の基準となる2つの基準を公表した。この間、IFRS財団アジア・オセアニアオフィス(AOオフィス)も、ISSBの拠点としての機能を付加し、国際会計基準審議会(IASB)とISSBの双方の活動を支えてきた。本稿では、ISSBの2つの基準の公表と、直近のAOオフィスの活動状況について報告する。文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りする。

1. IFRS-S1、S2基準の公表

  今般、ISSBが公表した2つの基準は、「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(S1)」及び「気候関連開示(S2)」である。1年半という短期間で最初の基準を公表できたのは、TCFDなど既存の基準等をベースとして開発したことにもよるが、投資家、企業、G20、G7、IOSCO、金融安定理事会などからの強い要請に応えるべく、ISSBが努力を重ねた結果と言えよう。

 ISSBの狙いは、乱立している既存の基準等をISSB基準に一本化し、これを世界中の法域が採用することによって、グローバルに比較可能なサステナビリティ関連情報を投資家に提供することにある。ISSB基準は、サステナビリティに関連する情報開示のグローバル・ベースラインとして開発されており、より広範な報告を求める機関(例えば、GRI)や法域は、ISSB基準に上乗せする形で独自の要求事項を追加できるよう設計されている。

 日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、日本基準(日本版S1、S2基準)の開発を進めており、2025年3月末までに確定基準が公表される予定である。日本基準は、ISSBのS1、S2をベースとして開発され、これに日本独自の要求事項が上乗せされる形になることが予想される。

2. ISSB設置後のAOオフィスの役割

 ISSB設置後、東京大手町にあるIFRS財団アジア・オセアニアオフィス(AOオフィス)には、ISSBの小森博司理事とスタッフ3名(PwCから出向している河合哲史氏と細田友貴子氏、KPMGから出向している高橋範江氏)が配属されたが、2023年1月からは、Tae-Young Paik理事(韓国出身)も配属となり、現在AOオフィスのISSBの陣容は、理事2名、スタッフ3名体制となっている。

 河合氏と細田氏は、サンフランシスコを本拠とする「マーケット・エンゲージメントチーム」に所属し、日本及びアジア・オセアニア地域のステークホルダーとのエンゲージメントを担当している。これまでの活動としては、SASB基準の産業別開示に関連し、アジアのコングロマリット企業の調査を実施したほか、SASB基準の国際化プロジェクト、SASB基準を参照するための支援プログラムの開発等に参画している。高橋氏は、ロンドンを本拠とする「コネクティビティ・統合報告・統合思考チーム」に所属している。同氏は、以前、旧IIRCに長期間兼務出向していた。現在は、同チームの中核メンバーとして、国内外で、統合報告・統合思考の普及のための講演やウェビナーの開催を数多く行っている。3名のスタッフは、小森理事、Paik理事とともに、AOオフィスISSBチームとして、国内外のステークホルダーとのエンゲージメントを活発に行っている。

 AOオフィスは、ISSBのマルチロケーションの1つであると同時に、IASBのロンドン以外の唯一の海外拠点でもある。AOオフィスは、IASBの鈴木理加理事の日本滞在中のベースとなっているほか、2名のIASBスタッフ(KPMGから出向している飯嶋めぐみ氏、EYから出向している柏岡佳樹氏)が配属されている。飯嶋氏は、現在、マネジメント・コメンタリー・プロジェクトと引当金プロジェクトを担当し、柏岡氏は、基本財務諸表プロジェクトを担当している。ボード会議に出席してスタッフ・ペーパーを説明するため、ロンドンに出張する機会もコロナ前のペースに戻りつつある。

 2023年6月にISSBの北京オフィスが開設された。北京は、アジア・オセアニア地域におけるISSBの2つ目のマルチロケーションとなる。今後、AOオフィスと北京オフィスは、共同して広大な地域をカバーしていくことになる。両オフィスの違いは、北京オフィスがISSB単独の拠点であるのに対して、AOオフィスは、IASBの拠点でもあり、IFRS財団の窓口でもある点である。AOオフィスとしては、この特徴を生かし、両ボードをサポートしながら、統合報告(あるいは、企業報告における統合)の分野においても役割を担いたいと考えている。

  IFRS財団は、AOオフィスの陣容の拡大に伴い、これまで派遣社員だったアドミスタッフ(秘書の林美帆氏)をフルタイムの正規雇用に切り替えた。また、今後のさらなる陣容の拡大に備えて、AOオフィスを法人化する予定である。法人の名称は、一般社団法人IFRS Foundationアジア・オセアニアとなる。

おわりに

 ISSBは、現在、2つの協議文書についてステークホルダーからのフィードバックコメントを募集している。一つは、「アジェンダの優先度に関する協議」の情報要請(提出期限:2023年9月1日)、もう一つは、「SASB基準の国際的な適用可能性を向上させるための方法論」の公開草案(提出期限:2023年8月9日)である。いずれも、ISSBの戦略的方向性を定める上で重要な協議であり、日本からも多くのコメントが提出されることが期待されている。なお、前者の協議文書に含まれる「報告における統合プロジェクト」の論点は、マネジメント・コメンタリー・プロジェクトの今後の取り進め方に関するIASBの審議にも影響を与えることに留意が必要である。