公開日: 2023年7月26日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 経理部 財務企画部長
ワンポイント
2023年6月のCMAC・GPF合同会議において、CMACメンバー及びGPFメンバーとIASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では「財務諸表における気候関連リスク」のセッションにおける当日の主な議論を紹介する。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。
はじめに
2023年6月に、国際会計基準審議会(IASB)の資本市場諮問委員会(Capital Market Advisory Committee、CMAC)と世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)の合同会議が開催された。
CMACは財務諸表利用者の代表者から、GPFは財務諸表作成者の代表者から、それぞれ構成される会議体で、利用者及び作成者双方の立場からIASBに対して定期的にインプットすることを目的としている。筆者がメンバーを務めるGPFは、15名のメンバーから構成され(2023年6月末現在)、ヨーロッパ6名、北米2名、南米1名、中近東・アフリカ1名、アジア5名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。
会議は、ロンドンでの対面とオンラインでの参加とのハイブリッド方式で開催された。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、以下の議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、CMAC・GPFメンバーとの意見交換が行われた。
- IASB・IFRS解釈指針委員会アップデート
- 基本財務諸表プロジェクト
- 引当金:現在の義務の認識規準
- 財務諸表における気候関連リスク
- 金融商品の分類及び測定
- 共通支配下の企業結合
本稿では、「財務諸表における気候関連リスク」についての当日の主な議論を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能であるため、適宜参照頂きたい。
財務諸表における気候関連リスク
プロジェクトの背景
気候関連リスクが財務諸表に与える影響についての世の中の利害関係者の関心は高いが、そもそも、IFRSで気候関連リスクについての明示的な言及がないことへの疑問や、気候関連リスクに対するIFRSの適用の一貫性や財務諸表における気候関連リスクの情報の十分さについての懸念も生じている。
そこで、IASBはプロジェクトを立ち上げ、気候関連リスクに関する情報についての財務諸表を通じたより良いコミュニケーションのあり方を検討するとともに、気候関連リスクについての利害関係者の懸念の性質や原因を深掘りすることによって対応策を検討することとした。なお、当プロジェクトは、気候関連リスクに関する会計基準や適用指針の開発、財務諸表の目的の拡大や資産及び負債の定義の変更、排出物価格設定メカニズムに関する会計基準の開発については、スコープの対象外としている。
なお、当プロジェクトと国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の作業は、財務諸表利用者が財務報告の異なる箇所に含まれる情報をつなげることを助けるよう、相互に補完し合うこととなる。
CMAC・GPF合同会議での論点
CMACメンバーに対しては、財務諸表における気候関連リスクの報告についての課題、必要となる情報開示の内容、それらの優先度、気候関連リスクに固有の情報の必要性について、GPFメンバーに対しては、CMACメンバーが必要とする情報を開示するにあたっての懸念について、また双方のメンバーに対しては、利用者のニーズと作成者の懸念のバランスのとり方について、それぞれ論点として提示された。
意見交換の主な内容
CMACメンバーの多くは、財務諸表において気候関連リスクに関するより良い情報開示が必要であるとコメントした。一部からは、財務諸表における気候関連リスクの影響についての情報開示が、サステナビリティレポートのような他の情報開示とつながっていない、もしくは一貫していないという意見が出された。気候関連リスクがどのように財務諸表に反映されているかについての情報開示が不十分であり、前提や方法論に関する情報が散逸している、との指摘もあった。財務諸表に重要な影響を与える気候関連リスクについての描写の有用性を認める声が多く聞かれた。
一方で、CMACメンバーの一部からは、気候関連リスクに関する情報は、サステナビリティレポートのような他の情報開示から入手可能であるため、財務諸表における開示は不要であるという意見も聞かれた。また、気候関連だけではなく他のリスクも、さらにはリスクだけではなく機会に関する情報開示も、プロジェクトのスコープに含めるべきという意見も聞かれた。
GPFメンバーからは、利用者が要求する情報は商業的に機微なものである上に、情報が直ちに入手可能ではないため開示の負荷が高まること、さらには、そもそもそれらの情報が監査可能なのか、という懸念が示された。気候関連だけではなく他のリスクもプロジェクトのスコープに含めることへの賛成の声も聞かれたが、コストへの懸念も示された。
双方のメンバーより、企業はすでにIFRSで気候関連リスクやその他のリスクの影響を考慮するよう求められているため、本件に係る基準開発は不要であるとの意見が出された。また、気候関連リスクに関する情報開示を改善するような教育文書をIASBが発行すべきであり、例えば重要性の判断基準や減損テストを行う際の長期リスクをどのように考慮するかについてのガイダンスを織り込むべきである、という声も聞かれた。
今後のスケジュール
IASBは、合同会議でのCMAC・GPFメンバーの意見を踏まえてプロジェクトの今後の進め方や方向性を年内に検討する予定である。
おわりに
合同会議では、気候関連リスクについての情報を財務諸表で開示すべきであるという意見と開示不要であるという意見の両方が聞かれた。一方で、気候関連リスクを含むサステナビリティ情報の開示と財務諸表における情報の開示とのつながりを気にする声も多くあったと感じた。財務情報と非財務情報との関係性を測る上で重要なプロジェクトと思われるため、動向を注視するとともにGPF会議で引き続き意見発信していきたい。
筆者略歴
富士通入社後、海外子会社の事業管理を経て、2002年から2005年まで米国駐在。帰国後、IFRS推進室にて全社IFRS適用プロジェクトに従事。2010年企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。2012年英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通の本社経理部門にて、富士通グループの財務会計を統括。
ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員
世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー