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IFRSワンポイント・レッスン 第29回_ GPF会議(2023年3月)での議論

公開日: 2023年4月10日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部 経理部 財務企画部長

ワンポイント

 2023年3月のGPF会議で、「基本財務諸表プロジェクト」と「企業結合-開示、のれん及び減損」について、GPFメンバーとIASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。

 文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。

はじめに

 2023年3月3日、世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、以下「GPF」という。)が開催された。GPFは財務諸表作成者の代表者からなる会議体で、作成者の立場から、IASBに対して定期的にインプットすることを目的としている。GPFのメンバーは17名(2023年3月末現在)で、ヨーロッパ7名、北米2名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア5名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。

 今回の会議も、前回に引き続き、ロンドンでの対面とオンラインとのハイブリッド開催となった。日本からは筆者がオンラインで参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、議事に関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、GPFメンバーとの意見交換が行われた。

  • 基本財務諸表プロジェクト
  • IASB・IFRS解釈指針委員会アップデート
  • 企業結合-開示、のれん及び減損
  • 開示イニシアティブ-公的説明責任のない子会社
  • 持分法
  • ISSBアップデート

 本稿では、「基本財務諸表プロジェクト」と「企業結合-開示、のれん及び減損」についての当日の主な議論を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能であるため、適宜参照頂きたい。

基本財務諸表プロジェクト

 IASBは、基本財務諸表プロジェクトについて、2019年12月に公表した公開草案「全般的な表示及び開示」に対して寄せられたコメントを踏まえ、再審議を行っている。

 今回のGPF会議では、公開草案の会計基準化を進めるにあたって、移行期間と発効日を決定する際の検討要素が何か、新会計基準の導入による財務諸表作成者にとっての便益とコストは何か、という点を中心にディスカッションが行われた。

 GPFメンバーからは、新会計基準は、必要な情報がすでに入手可能である場合は比較的スムーズな適用が可能であるが、そうでない場合は適用にあたって多くの時間を要するという意見が出された。後者については、新会計基準に対応するために必要な情報が連結システム内で取得できない場合、オペレーションレベルでのシステムに情報を取りに行く必要があり、その際にはシステム間でのデータのマッピングが必要であること、さらには、そのようなマッピングを遡及的に行うことは困難であること、が指摘された。新会計基準に対応するためにITベンダーへのシステム改修依頼が一時的に集中することが考えられるため、移行期間は長めに確保したほうが良い、という意見も出された。

 また、新会計基準の導入にあたっては、社内の予算管理や決算報告、戦略立案、内部統制など財務報告と関連する領域への影響を考慮する必要があるため、それら領域におけるプロセスを変更し、当該変更を従業員に周知徹底する期間を十分確保する必要がある、という意見も出された。

 便益とコストについては、新会計基準の要求事項によって従前よりも体系立てた財務報告をマネジメントに行うことができ、かつ、会社の財務情報についての同業他社との比較がし易くなるため、有用であるという声が聞かれた。一方で、新会計基準の要求事項がマネジメントの経営に対する見方を表さない場合、社内管理用の報告数値を別に用意する必要があるためコストが増大する、との意見も出された。

企業結合-開示、のれん及び減損

 IASBは、企業結合について、企業が提供する情報の改善を合理的なコストで実現することを目的として、公開草案の公表に向けて、開示の要求事項やのれんの減損テストの改善を検討している。

 今回のGPF会議では、2020年3月に公表されたディスカッションペーパー「企業結合-開示、のれん及び減損」へのステークホルダーからのコメントを踏まえ、のれんの減損テストを中心にディスカッションが行われた。

 論点の一つは、過年度ののれんの減損テストで使用された将来キャッシュフローの予測とキャッシュフローの実績との比較を開示することによって、財務諸表利用者がキャッシュフローの正確性を評価できるのではないか、という点であった。この点について、多くのGPFメンバーから、キャッシュフローの予測は、極めて高度な判断領域であり、また、外部環境の変化というマネジメントのコントロール外の要素にも左右されるため、開示の有用性に疑義がある、という意見が出された。また、業種によっては減損テストは長期的なキャッシュフローに左右されるため短期的な正確性を求めることは有用ではないという意見や、商業的な機微情報の開示となってしまうことに加えて訴訟リスクも生じるという意見も出された。

 他の論点として、減損の兆候を識別する際のリストを改善することで減損損失の計上の遅延を防ぐことや、その際に年次の減損テストの実施を維持すべきかどうかといった点について、意見交換が実施された。GFPメンバーからは、リスト自体には特に問題がないため、年次の減損テストの実施の有無に関わらずリストを改善することの有用性は低いのではないかという意見や、仮に年次の減損テストへの要求がなくなったとしても、減損兆候の有無の判定は煩雑であるため減損テストを実施する方が実務的には楽であるという意見が出された。また、その他多くの論点が議論された。

おわりに

 本稿で紹介したプロジェクトは、いずれも、IFRSを適用する企業の実務に大きな影響を与え得るものである。単なる基準対応だけではなく、社内管理や内部統制など現行プロセスの見直しが必要となる可能性があるため、プロジェクトの動向を注視するとともに、早めの検討を実施すべきであると考える。

筆者略歴

富士通入社後、海外子会社の事業管理を経て、2002年から2005年まで米国駐在。帰国後、IFRS推進室にて全社IFRS適用プロジェクトに従事。2010年企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。2012年英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、富士通の本社経理部門にて、富士通グループの財務会計を統括。  

ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員
世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー