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IFRS財団の最新活動情報_ ISSBファベール議長の初来日

執筆日: 2022年12月22日
筆者: 高橋真人氏 IFRS財団アジア・オセアニアオフィス ディレクター

はじめに

 2022年10月、エマニュエル・ファベール国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)議長が来日した。ファベール議長の来日は、1日半という短時間であったが、小森博司ISSB理事、鈴木理加IASB理事とともに精力的に国内関係者と面談し、意見交換を行った。本稿では、ファベール議長の来日中の各種会合における意見交換の内容等を報告する。ただし、その内容は、会合に同席した筆者の記録に基づくものであり、IFRS財団、面談先の公式記録ではない。また、文中意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であることを予めお断りする。

ステークホルダーとの会合

(1) FASF/SSBJ

 ファベール議長は、財務会計基準機構(FASF)の林田英治理事長、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の川西安喜委員長ほかと面談した。川西委員長は、SSBJは、ISSBのビルディングブロック・アプローチを支持すると述べた。また、日本の国内サステナビリティ開示基準の開発にあたっては、高品質な基準を目指すとともに、国際的に整合性のあるものを作っていくと述べた。ファベール議長は、SSBJがISSB基準とコンフリクトのない国内基準を設定する世界初の基準設定主体になってほしいと述べた。

(2) 東証

 ファベール議長は、東京証券取引所の山道裕己代表取締役社長、小沼泰之取締役、青克美常務執行役員ほかと面談した。ファベール議長は、長年にわたる東証のTCFDとSASB基準の推奨に謝意を伝えた。開示によるキャピタルコストへの影響に関する議論では、投資家と企業がISSB基準という共通言語で会話をすれば、ベータ値が下がり、ボラティリティも小さくなるはずだという意見で一致した。

(3) 金融担当大臣

 ファベール議長は、鈴木俊一財務大臣兼金融担当大臣、金融庁の中島淳一長官、井藤英樹企画市場局長、井上俊剛審議官ほかと面談した。鈴木大臣は、日本では、有価証券報告書の記述情報の中にサステナビリティ情報の記載欄を設け、早ければ2023年3月期から開示を義務付けると述べた。また、2022年10月にワシントンで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議の議長総括において、ISSBによる 基準の最終化とともに、気候以外の作業への期待が表明されているが、とりわけ人的資本に関しては、日本のみならず世界各国の関心が高いと述べた。ファベール議長は、人的資本がG7あるいはG20における共通のテーマとなれば、ISSBに対する強力なメッセージになるだろうと述べた。

 今回、ファベール議長は、岸田文雄首相にも面談する予定であったが、臨時国会の関係で、面談は直前にキャンセルとなった。

(4) FASF主催の会合

 ファベール議長は、FASF主催の会合に出席した。会合は、ハイブリッドで開催され、林田FASF理事長、川西SSBJ委員長ほかFASF・SSBJ関係者とFASFのステークホルダーが参加した。ファベール議長は、FASFからのIFRS財団およびアジア・オセアニアオフィスに対する長年にわたるサポートに謝辞を述べた後、ISSBの戦略(相互運用性の高いグローバルベースラインの開発、高品質な基準開発と適用支援の拡充、資本市場のニーズへの対応、既存の基準をベースとする、投資判断のためのフィナンシャル・マテリアリティにフォーカスする)について講演した。

(5) 経団連

 ファベール議長は、経団連の会合に出席した。経団連からは、平野信行副会長、林田英治金融・資本市場委員長、井上隆専務理事ほか約70名が出席した。ファベール議長は、S1基準、S2基準を2023年のできるだけ早い時期に最終化したいと述べた。また、10月のISSB審議会で固まった方向性(マテリアリティの定義をIASBと同じにする、「重大な(significant)」と「企業価値(enterprise value)」という用語を削除する、S2の産業別指標は当面強制しない、GHGプロトコル以外の測定方法も認める、GHG排出量スコープ3の強制開示について救済措置を設ける等)を説明し、質疑応答を行った。経団連からは、経団連のサステナビリティ関連の取り組みについて紹介があった。

(6) JICPA・FASF主催のセミナー

 ファベール議長は、虎ノ門ヒルズ・フォーラムで開催されたISSBセミナーに参加した。セミナーの前後には、JICPAの茂木哲也会長、大手監査法人の各CEOほかと面談し、JICPA、監査法人各社のISSBおよびアジア・オセアニアオフィスに対する協力に感謝を述べた。

 ファベール議長は、セミナーの基調講演において、ISSBの目的、経緯、マルチロケーションによるグローバル展開、理事のバックグラウンドの多様性、諮問組織の設置等を紹介した。また、10月27日付けで、シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役の渋澤健氏をISSB議長特別顧問に任命したことを発表した。ファベール議長に続き、藤丸敏金融担当副大臣が基調講演(金融庁井上審議官が代読)を行った。

 続いて、「サステナビリティ開示基準の現在と将来」をテーマにパネル・ディスカッションが行われた。藤本貴子JICPA副会長がモデレーターを務め、ファベール議長、川西ISSB委員長、園田周金融庁国際会計調整室長、高村ゆかり東京大学未来ビジョン研究センター教授がパネリストとして参加した。パネルのあと、小森ISSB理事と河野正道IFRS財団評議員がゲスト・スピーチを行った。

(7) 経産省

 ファベール議長は、西村康稔経済産業大臣と面談する予定であったが、臨時国会の関係で、里見隆治大臣政務官との面談に変更となった。経産省からは、飯田祐二経済産業政策局長、蓮井智哉審議官、長宗豊和企業会計室長ほかが同席した。里見大臣政務官から、経産省の非財務情報の開示指針研究会(座長:北川哲雄青山学院大学名誉教授 ・ 東京都立大学特任教授)が従前から指摘していた4つの懸念(S2基準の産業別指標、財務報告との同時報告、GHG排出量、相互運用性)についてあらためて意見の表明があった。ファベール議長は、10月のISSB審議会で暫定決定した各種の緩和措置・ガイダンス等について詳しく説明した。里見大臣政務官からは、人的資本に関する開示基準の開発について、経産省としても協力したいとの表明があった。

おわりに

 今回、ファベール議長が日本の関係者から最も多く聞いたのは、人的資本に関する開示基準の開発を望む声であった。岸田首相が提唱する「新しい資本主義」では、日本経済の活力を再び高めるべく人的資本への投資が重視されている。人的資本への投資は、日本だけの政策課題ではないため、G7、G20各国においてもその開示基準の設定についてニーズがあることが考えられる。

 S1、S2基準は、遅くとも2023年前半には最終化され、公表される。また、人的資本をはじめとする次の開示トピックの候補の中で開発の優先順位を決めるためのアジェンダ・コンサルテーションも2023年前半に開始される。また、2023年3月には、東京でIFRS財団評議員会議が開催されるので、IASB、ISSB両議長が再来日する。2023年も、IASBとISSBの動向に目が離せない年になるであろう。

以 上