公開日: 2022年12月27日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部経理部財務企画部シニアディレクター
ワンポイント
2022年11月のGPF会議で、IASBが現在実施しているIFRS第9号「金融商品」(減損)とIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の適用後レビューについて、GPFメンバーとIASBメンバー及びスタッフとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。
はじめに
2022年11月11日、世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、以下「GPF」という。)が開催された。GPFは財務諸表作成者の代表者からなる会議体で、作成者の立場から、IASBに対して定期的にインプットすることを目的としている。GPFのメンバーは15名(2022年11月末現在)で、ヨーロッパ6名、北米2名、南米1名、中近東・アフリカ2名、アジア4名と、幅広く作成者の声を拾うため、地域バランスに配慮した構成となっている。
今回の会議も前回に引き続き、コロナ禍の状況を踏まえ、対面(ロンドン)とオンラインとのハイブリッド開催となり、日本からは筆者がオンラインで参加した。会議では各セッションにおいて、IASBスタッフより、以下のトピックに関するこれまでの検討状況が説明され、その後IASBメンバーを交えて、GPFメンバーとの意見交換が行われた。
- 引当金-的を絞った改善(割引率-不履行リスク)
- IFRS第9号「金融商品」(減損)の適用後レビュー
- IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の適用後レビュー
- 基本財務諸表プロジェクト
- 持分法
- IASB・IFRS解釈指針委員会アップデート
- ISSBアップデート
本稿では、IFRS第9号とIFRS第15号の適用後レビューについての当日の主な議論を紹介する。なお、会議で使用された資料は、IASBのウェブサイトで閲覧可能であるため、適宜参照頂きたい。
IFRS第9号「金融商品」(減損)の適用後レビュー
IASBはIFRS第9号「金融商品」(以下「IFRS第9号」という。)における減損の要求事項についての適用後レビュー(Post Implementation Review、以下「PIR」という。)を開始することを決定した。PIRは、大きくは、基準が重要な問題なく開発時に意図した通り機能しているか、また、実務での適用上の課題がないかについて、確認・評価することを目的としている。現在、GPF含むIASBのアドバイザリーグループ等からの情報収集を行っており、その後、より広範なステークホルダーに意見を募る予定となっている。
今回のGPF会議では、IFRS 第 9 号における減損の要求事項のコアとなる目的や原則に根本的な問題があるか、減損の要求事項を適用することによる利用者の便益は予想を著しく下回っているか、減損の要求事項の適用、監査及び当局によるエンフォースメントに係るコストは予想を著しく上回っているか、という点を中心にディスカッションが行われた。
多くのGPFメンバーは、IFRS 第 9 号における減損の要求事項、すなわち予想信用損失モデルは概して良く機能しており、実務で一貫して適用されることで従前の信用損失の遅延認識という問題を解決している、という意見であった。
一方で、減損の要求事項についてIFRS 第 9 号とUSGAAPとでコンバージェンスが達成されなかったことによる比較可能性の問題、予想信用損失モデルを当初適用する際の特にシステムが整っていない小規模の企業にとっての困難さ、経済の不確実性が生じている場合(例えばCovid-19の期間)の将来予測情報の織り込みの困難さなどを指摘する声もあった。
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の適用後レビュー
IASBはIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下「IFRS第15号」という。)のPIRを開始することを決定した。今回のGPF会議では、IFRS 第 15 号を全体としてどう評価するか、適用上の課題とその理由は何か、移行はどの程度困難だったか、適用上の便益とコストをどう評価するか、という点を中心にディスカッションが行われた。
多くのGPFメンバーは、IFRS 第 15 号は意図した通り機能している、また、5ステップモデルは有用であり、適用ガイダンスも従前の基準と比較すると適切に構成されている、という意見であった。
適用上の課題としては、IFRS 第 15 号を当初適用する場合の契約に含まれる履行義務の識別、特にIT業界における契約がIFRS 第 15 号とIFRS 第 16号「リース」のどちらのスコープに入るかの評価、不動産事業における収益認識のタイミングの決定、航空・防衛産業などにおける長期間契約から生じる契約資産の多大な残高とその変動に関する説明、残存履行義務の開示などが挙げられた。また、履行義務の識別にあたって契約を人工的にスライスするのではなく経済実態をより重視すべきであることや、IT業界の取引についての適用ガイダンスを拡充すべきであるといった意見が聞かれた。
IFRS 第 15 号への移行については、表示する過去の各報告期間に遡及適用する方法よりも、コストベネフィットの観点から、適用による累積的影響を適用開始日に認識する方法のほうがより多く使われているというコメントがあった。
適用上の便益とコストについては、IFRSとUSGAAPのコンバージェンスが非常に有益であったこと、IFRS 第 15 号によって企業間の比較可能性が向上したこと、IFRS 第 15 号が社内外での共通言語として機能していることという声がある一方で、従業員のトレーニングや契約の分析、内部統制の構築、会計方針書の作成や監査対応といったコスト増についてもコメントがあった。
おわりに
適用後レビューは、実際に基準を使ってみた上での不具合や改善すべき箇所をIASBに伝えることができる重要な機会である。前述のとおり、今後より広範なステークホルダーに意見を募る予定となっており、現時点では、IFRS第9号もIFRS第15号も2023年上期に情報要請が公開される見込みである。これまでの実務上の課題を整理し、意見発信すべき事項がないか検討されてはいかがだろうか。
筆者略歴
坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部経理部財務企画部シニアディレクター
富士通入社後、海外子会社の事業管理を経て、2002年から2005年まで米国駐在。帰国後、IFRS推進室にて全社IFRS適用プロジェクトに従事。2010年企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。2012年英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、財務会計制度及びディスクロージャーに従事。
ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員
世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)メンバー