執筆日: 2022年9月1日
筆者: 高橋真人氏 IFRS財団アジア・オセアニアオフィス ディレクター
1. はじめに
2022年8月1日、IFRS財団とValue Reporting Foundation(VRF)は統合し、同日付けで旧VRFのスタッフ3名がアジア・オセアニアオフィスに配属された。2022年9月1日には、小森博司氏が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)理事に就任し、アジア・オセアニアオフィスに常駐する。小森博司ISSB理事と3名のISSBスタッフを迎え、アジア・オセアニアオフィスの新体制がスタートする。本稿では、2022年8月までのIFRS財団及びアジア・オセアニアオフィスの最新動向を報告する。文中、意見にわたる部分は、筆者の私見であり、IFRS財団の公式見解ではないことをお断りする。
2.IFRS財団とVRFの統合
開示基準の収斂
VRFは、2021年6月に、Sustainability Accounting Standards Board(SASB)とInternational Integrated Reporting Council(IIRC)が統合して設立された財団である。VRFは、SASBが開発したSASB基準、IIRCが開発した統合報告フレームワーク、統合的思考原則を所有していたが、今回のIFRS財団への再統合により、これらの基準等の帰属先はIFRS財団になった。
VRFとの統合に先立ち、IFRS財団は、2022年1月にClimate Disclosure Standards Board(CDSB)との統合を完了している。2回の統合で、IFRS財団は、旧5団体(CDP、CDSB、Global Reporting Initiative(GRI)、IIRC、SASB)のうち3団体を吸収合併したことになる。また、GRIとは、協力協定を締結し、両者の間で可能な限り調整を行っていくことを合意している。
マルチ・ロケーション
VRFとの統合により、VRFの中核拠点であったサンフランシスコがISSBのマルチ・ロケーションに加わった。ロンドンは、IFRS財団の本拠地であるとともに、CDSB、VRFの拠点でもあった。一連の統合後、ISSBのマルチ・ロケーションの所在国は、5カ国(ドイツ、カナダ、米国、英国、日本)となった。中国は未定である。
アジア・オセアニアオフィスの新スタッフ
アジア・オセアニアオフィスに加わった3名は、国内の監査法人からVRFに出向していた日本人の公認会計士である。3名とも、日本からVRF(ロンドン、サンフランシスコ)へのリモート出向であったが、統合後は、アジア・オセアニアオフィスに出向していただくことになった。
高橋範江さんは、あずさ監査法人でIIRCの業務を兼任していたが、2022年6月にVRFへの常勤出向となり、現在は、ISSBの統合報告・コネクティビティチームに所属している。河合哲史さんと細田友貴子さんは、2022年3月、4月にあらた監査法人からVRFに常勤出向し、現在は、ISSBのマーケット・エンゲージメントチームに所属している。3名とも、統合前と同じ上司(ロンドン、サンフランシスコ在)の下で同じ業務を担当するが、今後は、アジア・オセアニアオフィスとしての業務も担当していただくことになる。
3.小森理事の就任
日本人理事の選任
2022年8月23日に小森博司氏を含む3名のISSB理事の選任が発表され、8月31日に2人目のISSB副議長にジンドン・ファ氏の選任が発表された。これで、理事14名全員が決まった。
小森氏は、埼玉銀行(現りそなホールディングス)ロンドン支店勤務を経て、1990年に住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に入社し、証券代行コンサルティング部審議役、理事を歴任した。2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に任用され、スチュワードシップ・ESG部門を立ち上げ、2022年3月に退職するまで、同部門を統括した。小森氏をISSB理事に推す声は、国内だけでなく海外の投資家からも多くあった。
小森理事は、アジア・オセアニアオフィスに常駐し、アジア・オセアニア地域のエンゲージメントも担当する。小森理事以外のISSB理事がアジア・オセアニアオフィスに常駐するかどうかは、現在のところ未定である。
アジア・オセアニア地域戦略
ISSBのアジア・オセアニア地域枠選出の理事は、ビン・レン理事(中国)、テヨン・パイク理事(韓国)、小森博司理事(日本)の3名である。副議長は、全世界枠選出であるが、スー・ロイド副議長はニュージーランド、ジンドン・ファ副議長は中国出身である。ISSBのアジア・オセアニア地域戦略は、これらの理事を中心に議論されることが考えられる。
4.公開草案へのコメント
700通のコメントレター
ISSBの全般的要求事項基準(S1)、気候関連基準(S2)の公開草案に対するコメントの募集は、2022年7月29日に終了した。S1、S2にそれぞれ約700通のコメントが寄せられた。そのうち、アジア・オセアニア地域からは、S1、S2にそれぞれ約100通のコメントがあった。日本からは、S1、S2にそれぞれ約20通のコメントがあった。
日本からは、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)、経産省非財務情報の開示指針研究会、ESG情報開示研究会(EDSG)、日本公認会計士協会(JICPA)、日本経済団体連合会、日本証券アナリスト協会、日本CFA協会のほか、銀行、生保、損保、証券、鉄鋼、石油、ガス、セメント、海運、貿易など多くの業界団体がコメントを提出した。
現在、ISSBのスタッフがコメントレターの分析・分類作業を行っている。分量が多いため、最終的な分析にはまだ時間を要すると思われるが、初期的な分析結果は、2022年9月のISSBボード会議で報告されるはずである。
日本からの意見
公式な分析ではないが、アジア・オセアニアオフィスのスタッフが、日本から提出されたコメントレターに目を通した限りでは、以下の項目に関する指摘が比較的多かった。
- 重大なサステナビリティ関連リスクと機会の識別
- S2基準の付録B(業種別開示項目)
- 財務報告とサステナビリティ報告の同時開示、報告対象期間の一致
5.今後の予定
ISSBボード会議
2022年9月19-23日に、フランクフルトで第2回ISSBボード会議が開催される。ISSBのボード会議は、基本的にフランクフルトとモントリオールで交互に開催されるが、年に1回程度は、それ以外のオフィスの所在地で開催することが計画されている。
評議員会議
2022年10月25-27日に、韓国ソウルでIFRS財団評議員会が開催される。評議員会議には、IASB、ISSB両議長も出席するが、エマニュエル・ファベールISSB議長は、ソウルでの会議の後、東京を訪問することを検討している。来日が決まれば、ISSB議長として初の来日となる。
2023年2月28日-3月2日に、東京でIFRS財団評議員会議が開催される。エルッキ・リーカネン評議員会議長と全評議員、IASB、ISSB両議長・副議長、財団事務局長などが来日する。
ISSBの作業計画
今のところ、ISSBの作業計画に変更はない。S1、S2基準案は、ISSBでの審議が順調に進めば、2022年内に最終基準化される予定である。ISSBのAgenda協議は、2022年10-12月に開始される予定である。
6.おわりに
IFRS財団は、VRFとの統合を機に、ウェブサイトを刷新し、パワーポイントのデザインも刷新した。ロゴには、Foundation、Accounting、Sustainabilityの文字が入った。IFRS財団の新しい出発を象徴している。アジア・オセアニアオフィスは、小森理事と3名のISSBスタッフを迎え、常勤者が4名から8名に拡大した。アジア・オセアニアオフィスの新しい出発である。引き続き、アジア・オセアニアオフィスへのご支援をお願いする次第である。
以 上