お問い合わせ

IFRSワンポイント・レッスン 第27回_CMAC・GPF合同会議(2022年6月)での議論:IASBディスカッション・ペーパー「企業結合-開示、のれん及び減損」

公開日: 2022年9月14日
筆者: 坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部経理部財務企画部シニアマネージャー

ワンポイント

IASBは、2020年3月に公表したディスカッション・ペーパー「企業結合-開示、のれん及び減損」について、市場関係者から寄せられたフィードバックを踏まえて再検討を行っている。2022年6月のCMAC・GPF合同会議では、企業結合に関する開示について、CMAC・GPFメンバーとIASBメンバーとの意見交換が実施された。本稿では当日の主な議論を紹介する。

 文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。また、紙幅の関係から基準等の記載を簡略化している場合があるため、正確な理解のためには原文を参照していただきたい。

はじめに

 2022年6月に、国際会計基準審議会(IASB)の資本市場諮問委員会(Capital Market Advisory Committee、CMAC)と世界作成者フォーラム(Global Preparers Forum、GPF)の合同会議が開催された。本会議では以下の事項について意見が交わされた。

  • IASB及びIFRS解釈指針委員会の活動に関するアップデート
  • 基本財務諸表:営業費用の内訳開示、通例でない収益及び費用
  • IFRS第9号「金融商品」適用後レビュー(分類と測定)
  • 企業結合に関する開示
  • 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)アップデート(公開草案を含む)


 本稿では、「企業結合に関する開示」についての当日の主な議論を紹介する。なお、企業結合に関する開示については2021年11月のGPFでも初期的な議論が実施されており、その内容についてはニュースレター第36号で紹介している。

企業結合に関する開示

 IASBは、現在、2020年3月に公表したディスカッション・ペーパー(DP)「企業結合-開示、のれん及び減損」に寄せられたフィードバックを踏まえて当該DPの再検討を行っている。DPにおける予備的見解では、IFRS第3号「企業結合」に以下の事項を加えることが提案されている。

  • 開示目的
  • 企業結合の事後のパフォーマンスについての開示要求
  • 企業結合から生じると期待されるシナジーの定量情報についての開示要求


 まず、IASBのDPにおける予備的見解に対し、CMACとGPFそれぞれのメンバーより以下のフィードバックがあった。なお、以下、文章の末尾にCMACやGPFといった発言元を記載しているが、必ずしもすべてのメンバーが同様に発言したという意味ではなく、一部や少数のメンバーからの発言を示している場合もある。

  • 企業結合に関する情報ニーズは強い。特に、利用者は、のれんについての追加的な情報よりも、企業結合の経済実態についての情報をより必要としている(CMAC)
  • 利用者のニーズに合った情報を開示しているのは一部の企業のみであり、予備的見解に基づく開示が行われることによって利用者が受け取る情報はより良いものとなる。また、そのような情報拡充によって利用者の投資配分も改善される(CMAC)
  • 予備的見解に基づく開示は、商業上の機密の問題や、企業結合後の情報の開示と監査の困難さの観点から、懸念がある。また、財務諸表で開示する情報について法的な保護がない法域においては訴訟リスクへの懸念がある(GPF)


 合同会議では、企業結合に関する開示が利用者のニーズと作成者の懸念のバランスがとれたものとなることを検討するため、IASBのスタッフより以下①~④の代替案が提示され、それぞれについてCMACとGPFのメンバーより意見が出された。

一部の企業結合のみを開示対象とするか

  • 情報開示は重要な企業結合についてのみ行われるべきである(CMAC/GPF)
  • 期待されるシナジーの定量情報についての開示は、当該シナジーが重要である場合にのみ行われるべきである(CMAC/GPF)
  • 一部の企業結合についてのみ情報開示を要求することは利用者と作成者の双方にとって良い妥協点となり得る。IASBは、量的及び質的な観点から合理的な「一部」を検討すべきである(CMAC/GPF)
  • 個別には重要でない企業結合についてはそれらを集約した情報を開示することも考えられる(CMAC)

特定の状況において特定の情報の開示を免除するか

  • 免除の過度の使用に対する懸念はあるものの(CMAC)、特定の情報の開示が免除されるべき状況は存在し得るため、当該代替案に賛成する(CMAC/GPF)
  • 免除が適切と考えられる状況は、情報が商業上の機密に該当する場合や、情報がMD&A等の経営者による説明で開示される場合と比べて財務諸表において開示される場合において保護の度合いが低い場合が考えられる(CMAC/GPF)
  • 免除規程の適用は、企業結合に対するマネジメントのターゲットに関する情報のみとすべきである。一方で、企業結合の戦略的合理性や目的に関する定性情報は開示されるべきである(CMAC/GPF)
  • 免除規程を使う場合はその旨を開示すべきである(CMAC/GPF)
  • 免除規程を使う場合は、なぜその情報を開示しないのかについての説明を開示することも有用であると考えられる(CMAC)

企業結合の初年度は定性情報のみとするか

  • 初年度の開示を定性情報に限定することにより、企業結合に対するマネジメントのターゲットに関する情報開示が回避できる(CMAC/GPF)
  • 一方で、マネジメントのターゲットに関する情報なしでは、その後の期間における企業結合のパフォーマンス評価が難しい(CMAC/GPF)
  • 企業結合の目的という定性情報を理解するために定量情報は必要である(CMAC/GPF)
  • 初年度に定性情報のみを求めることでは、企業がいつ買収したビジネスを統合するかに関する情報が不足しているという懸念は払拭されない(CMAC/GPF)

企業結合の目的の達成を測定するためにマネジメントが使用する指標について、開示すべきものを特定するか

  • 企業がどの指標を開示するかについて会計基準で特定すべきではない(CMAC/GPF)
  • 企業結合の目的には様々なものがあり、買収したビジネスの統合にも様々な方法があるため、企業結合の目的を最も良く反映する指標が用いられるべきである(CMAC/GPF)


 その他、企業結合から生じるシナジーに関する定量情報の開示を改善すべき(CMAC)という意見や、IASBのDPにおける予備的見解は財務諸表ではなくMD&A等の経営者による説明で開示されるべきである(GPF)といった声もあった。

おわりに

 企業結合に関する開示については、これまでは利用者と作成者の意見でかみ合わない部分が多く平行線をたどってきたが、双方の落としどころを見つけるべく議論が続いているのが今の状況である。誤解を恐れずに言えば、すべての企業結合ではなく、重要な企業結合についてのみ、一定の情報開示が求められる方向となりつつある。情報開示のスコープが狭まることで実務上の煩雑さは軽減されると想定されるものの、何が重要かという判断を企業は求められることとなる。IASBでの議論が最終的にどう着地するか、引き続き注視したい。

筆者略歴

坂口和宏氏 富士通株式会社 財務経理本部経理部財務企画部シニアマネージャー

富士通入社後、海外子会社の事業管理を経て、2002年から2005年まで米国駐在。帰国後、IFRS推進室にて全社IFRS適用プロジェクトに従事。2010年企業会計基準委員会(ASBJ)へ出向。2012年英国の国際会計基準審議会(IASB)へ出向し、主にIFRS解釈指針委員会の案件を担当。現在、財務会計制度及びディスクロージャーに従事。  

ASBJ 収益認識専門委員会専門委員・IFRS適用課題対応専門委員会専門委員 Global Preparers Forum(GPF:世界作成者フォーラム)メンバー